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高年俸の医師求人の裏を読む

 先回は<タイプ別・残念で使えないエージェント>について書きましたが、今回は彼らが推してくる「高年俸求人」が募集されている裏側を考察します。転職の際に、ご自身の価値を「金銭だけで量る」ことは避けていただきたいのですが、募集の背景を知って応募されるのなら、止めはいたしません。

高年俸求人が募集される主な理由

 医師求人サイトで「年俸2000万円以上」にチェックを入れて、「この条件で検索」を押すと、相場より高年俸の求人がヒットします。どうして、こういった高額給与が提示されるのか、その背景を知っておきましょう。

(理由1)立地条件が悪いから
 人口減少が進む過疎地や、アクセスが不便な地方にある病院は、将来のキャリアの不安や、家族の生活面の不便さから医師の応募がありません。
ただ、それだけの理由で「高年俸」が提示されます。
 高年俸に加えて医師専用個室が病院内に用意されていたり、単身用の住居提供もあります。それでも医師採用には苦戦しています。都市部でも人気のないエリアはありますが、高年俸募集はそれほど表立っていません。因みに大阪府では大和川以南では医師の応募が少なく、一部で医師採用における「大和川問題」として認識されています。

(理由2)給与以外の条件が見劣りしているから
 厳しい勤務や長時間労働を「高年俸」で埋め合わせるパターンです。
病院が良好な労働環境や福利厚生を提供しておらず、求人票を確認すると、当直込みの表示だったりします。そのほか通勤費込み、時間外手当や学会補助制度がない場合があり、休暇や保険、退職金制度などの福利厚生も見劣りしています。もう一度求人内容を調べ直しましょう。

(理由3)医師がすぐ辞める病院だから
 医師がすぐ辞める病院は「職員をこき使う」傾向があります。こうした病院では、医師に高年俸を提示する代わり、スタッフの給与や設備への投資を抑制することが多いようです。医師定数に余裕がないのも特徴です。
 待遇が悪いので優秀なコメディカルから辞めていきます。離職率が高いと求人応答が悪くなり、人が集まりません。設備も更新されないので「低レベルの医療」しか提供できなくなります。これに耐性のある医師とスタッフ以外は定着しません。確かに高年俸ですが、応募はよく考えてからされるほうがいいでしょう。

(理由4)病院イメージが悪いから
 病院のイメージは、そこで働く医師やコメディカルの評判、患者層や患者サービスの質などが絡んで、時間をかけて形成されます。過去に何らかの理由で病院イメージが棄損され、その回復に時間がかかり、ブラックという噂が先行すれば、周りが応募に反対します。医師もあえて応募をされないでしょう。この打開策として高年俸求人が出ます。これには2つのパターンあります。

 ひとつ目は、実態と噂に乖離があるパターンです。過去に民事再生になったものの経営陣は入れ替わり、給与以外の要素も改善された病院を取材したことがあります。得意分野を含めて体制強化のための専門医募集で、起爆剤としての高年俸提示がありました。ただ高年俸を提示するだけでなく「安心して働ける環境の整備」を同時に進めており、財務状況も問題ありません。ですが、やはり「イメージの回復」には数年はかかりそうです。よく調べもせず、過去の噂を「さもありなん」と医師に伝えたエージェントも残念ながらいたようです。

こんな高年俸求人は要注意
 むしろ気を付けて欲しいのが、病院イメージが悪いため「非公開」になっている求人です。提示年俸に大きな幅があり、エージェントの交渉で「給与がポン」と上がります。
 医師にすれば「自分を評価してくれた」と嬉しくなりますが、実はさしたる根拠はありません。こうした場合の年俸は、経営者の「気分」で決まることが多いのです。そのため入職してしばらく経つと、払った給料の元を取ろうとする心理が働くのか、面談時になかった要求が現れ始めます。
 こういう施設のイメージが悪いのは、医師を「駒扱い」しがちだからです。医師数が落ち着いたら給与の高い医師から整理を始めることもあります。加えて、先に在籍している医師が「高年俸目当ての転職組」なら、きっと「個性派」揃い。人間関係でカルチャーショックを受けるかもしれません。長く勤める職場とは思えません。

ハイリスク・ハイリターン型のクリニック求人
 美容整形や美容皮膚、AGAクリニックなどは総じて高年俸です。
これらのクリニックは自費診療がメインで一部保険診療をしています。
 美容系の採用では「ルッキズム」が先行します。医師の外見が施術数に影響するためで、同じくAGAは先生の毛量をみられます。さらに契約では、先生の肖像を様々な交通広告や媒体で露出することが求められます。どちらかというとタレント契約に近いかもしれません。

 美容系以外でも、クリニックの管理医師(雇われ院長)の募集は、週4日勤務でも高額給与が提示されます。背景の一つに後継経営者が定まらないクリニックの増加があります。親子継承が難しいケースも多く、もし「医療法人格」を持つクリニックならM&A(第三者承継)の対象になります。M&Aの交渉と管理医師の確保が同時に進められるので、期限付きで高年俸の管理医師の募集がでます。

 もう一つは、分院展開を進めるクリニックや、在宅クリニックの医師募集です。これらは早急に計画を実行する必要があり、良い医師が確保できそうなら高年俸も惜しみません。ただし、いずれの場合も「管理者」になってしまうと、辞たくても辞められない状況になるので注意しましょう。

 クリニックは、医師の個人立であっても経営コンサルや顧問税理士がシビアに経営を判断します。経営不振だと固定費の削減、医師の減俸や解雇、場合によっては閉院も検討されかねません。概ね家賃が収益の10%を超えると彼らが動き出すので、外来収益はしっかり上げるよう心掛けておきます。
 病院に比べると高年俸が多いクリニック求人ですが、ハイリスク・ハイリターン型であることはよく認識しておいてください。

次回は、高年俸に拘って問題のない医師と、そうでない医師について考察します。




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