見出し画像

転職の「負のスパイラル」に ご注意

 前回<高年俸の医師求人の裏を読む> では、高年俸求人の裏側を少し覗き見しました。高年俸求人は、背景を確認してから応募してくださいという趣旨ですが、年俸だけで転職先を評価すると、その後のキャリアに悪い影響が及ぶこともあります。高年俸に拘りすぎる転職は「負のスパイラル」に陥りやすいのです。今回は、高年俸に拘っても問題のない医師と、そうでない医師の違いについて私見を述べます。

高年俸に拘っても問題のない医師と、そうでない医師の違い

 高収入職業の代表といえば医師です。
医師は人の命に関わる重要な職業で、他の職種よりも「社会的な責任や使命感」を強く求められます。また、医師になるまでにかかった時間や労力、なったらなったでハードな仕事と長い拘束時間、家族にも負担がかかることを思えば、それに見合う「高い報酬」はあって当然でしょう。

 一方、転職現場には、年俸に「極端に拘る」先生もおられます。
こうした先生の応募動機は様々です。たとえば「自分に何かあったら終わりだから」という危機感や「せめて家族には金銭的な余裕を」という方もいます。あるいは「自分はもっと評価されて然るべき」と断言する方もいます。

 結論から申し上げれば、高年俸に拘って問題のない医師とは、自立・独立心が強く、自分の能力や価値に対し「客観性」を持ちあわせた医師です。
 このタイプの医師は、たとえば救急対応した患者を病棟にあげて、自分で管理することに積極的です。もちろん患者のために最善を尽くしますが、能力を超えていれば転院指示を早めに出します。この病院で、どうすれば「稼ぎ」が作れるかの「ビジネスセンス」があります。言い換えれば自分のアイデンティティである「高年俸の根拠」を作ります。そして、プロ野球選手のように「高年俸を自らの価値」と見做しています。

 一方、高年俸に拘って問題となる医師のほとんどが、自己評価は「プロ野球選手」並みなのですが、実績や貢献が伴っていません。医師免許が欲しいだけの病院は除いて、高い報酬に見合う実績を経営側に見せないと「風当たり」が強くなります。高年俸求人の殆どは単年契約ですが「年俸分も働かない医師は切る」のがその理由です。あまりに実績が乏しい医師は、1年後に戦力外通告されることも結構あります。

高年俸に拘る医師が陥りやすい罠

 日本は課税対象額が多ければ税率もあがる「超過累進課税」の国です。
高年俸に拘り、たとえば年俸2000万円で所得控除なしだとすると、所得課税と社会保険料で年収の約37.7%、2500万円だと年収の約40.2%が税金に持っていかれます。悩ましいのが、次年に課税される住民税です。
 地域によりますが、年俸2000万円なら次年度に払う住民税は150~160万円近くになります。医師が生活水準を下げることは至難で、次の転職先の年俸が低いなら一時的に貯金を崩さなければなりません。これは避けたいので、次の転職先も高年俸求人をメインに探します。というより、高年俸の維持が第一の目的になります。こうして転職の「負のスパイラル」の罠が始動します。

 もし自らを客観視せず、高年俸を追う転職を繰り返すと、履歴書の勤務欄は改行だらけになります。そこに「ブラック」と称される施設名が並び、高年俸の希望が書き込まれるなら、この履歴書の受入れ先は限られます。書類の通過も困難でしょう。そして医師の年齢が60歳に近づくほど「紹介先」は弾切れになります。エージェントはまともな対応をしなくなり、医師への連絡が滞ります。代わって現れるのが「ブローカーまがいのエージェント」です。あとは想像にお任せしますが、早期離職が2つ以上重なる履歴書は、かなり警戒されます。

 高年俸に拘って問題のない医師と、そうでない医師の違いは、自立・独立型かどうかと、自分の能力や価値を客観視できるかどうかです。ビジネスセンスが高い医師なら、自分でさっさと開業するなり、新しい事業を起こすなりされています。そうでなければ、どうか転職の「負のスパイラル」は避けていただきたいのです。

 一部のタフな医師は除きますが「自分を振り返る」作業をせずに、年俸だけで転職先を決めるのは危険です。それよりも大事なのは「自分にとって本当に幸せな仕事・生活とは何か」「どのような働き方なら満足できるのか」について考えていただくことだと思います。

次回は年俸の算定根拠について考察します。
勤務医の週5日の年俸は1200~1500万円とされていますが、仮の求人票からその年俸の算定根拠を考えてみます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?