ひと粒で3度おいしい短編ゲーム「7 DAYS TO END WITH YOU」
※物語の根幹に触れるようなネタバレはしませんが、ゲームの仕組みを紹介する過程で序盤のスクリーンショットは使うので、ご承知おきください※
突然だが、普段あなたは何語を喋り、読み、書いているだろうか?
「何を当たり前なことを……」
「日本語に決まってるじゃないか」
おっしゃる通り。
この記事を書いている私も、読んでくれているあなたも、日本語という言語を当たり前に使っている。
当たり前過ぎて普段はあまり意識しないことが1つ、ある。
それは。
言語とは、必ずしも意図した通りに意味を伝える道具ではない――――ということだ。
本作「7 DAYS TO END WITH YOU」は、
そういった言語の奇妙さや奥深さを、未知の言葉の不自由さと翻訳の感動で伝えてくれるゲームだ。
この記事では、本作がどんなゲームなのか?と、題で言っている3つのおいしさについて伝えていきたい。
ゲームの概要
この作品は、一人称視点のアドベンチャーゲームとして進行する。
プレイヤーはゲーム中の「わたし」となり、タイトル通り7日という時間を使ってある程度自由に行動することができる。
ただし、「わたし」は目覚めた(ゲーム開始の)時点で
・直前までの一切の記憶が無い
・目に映る文字や人の話す言葉が全く分からない
状態でスタートする。
人。
そう。
このゲームにはもう1人、重要な役割を持つキャラクターが登場する。
画面右におわす、赤髪(&ちょっぴりセクシーな服装)が印象的な女性だ。
タイトル画面やロゴにも存在しているこの女性は、一応、会話中のテキスト枠には名前を表していると思しき文字列があるが、未知の言語で書かれたそれは暗号にしか見えない。
この正体不明の女性は「わたし」が言葉を理解できていないことを最序盤で察し、
・プレイヤーが画面内のオブジェクトをクリックした時、そのモノについて説明
してくれるようになるのだが……。
実は、ゲームの導入はこれだけで終わる。
あとはプレイヤーの好きなように場所を移動し、好きなようにモノをクリックできるので、オブジェクトの説明を元に未知の言語の意味を類推していくことになる。
7日間のうち、ほとんどはそうやって自由な行動パートを過ごすが、プレイヤーの行動次第では所々でイベントが発生する。
イベントパートはノベルゲームのように女性が語りかけ、時には選択肢が現れたりするので、それまでに類推した意味によってなんとなく解釈していくことになるだろう。
1つ目の美味しさ
→ ゼロから翻訳する行為そのもの
ところで我々日本人が英語を学ぶ時、どうやって英単語の意味を知っただろうか?
きっとほとんどの人が「英和辞典で調べる」ことによって、未知語と既知語を対応させて勉強してきたはず。
だが、しかし。
その英和辞典は空から降ってきたアイテムじゃない。
辞書が無かった時代、最初に英語に触れた誰かはそんなお助けアイテム無しにコミュニケーションを取ろうとしたのであり、そういった先人たちの努力のお陰で我々はショートカットができたわけだ。
このゲームに話を戻すと、
つまるところプレイヤーは「まったく未知の言語と史上初めて接触した日本人」となる。
例えば、赤い本を指差した時に「ナアトヌァルタ」と言われ、赤い服を指差した時に「カドレヌァルタ」と言われたのだとしたら、もしかしたら「ヌァルタ」という単語が日本語で「赤」を表しているのかもしれない。
その仮説を元にすれば「ナアト」=「本」、「カドレ」=「服、ないし布」とパズルのように未知単語の意味を類推していくことができるだろう。
自分だけの翻訳辞典を作っていくという体験だけでも珍しいし、その過程が推理やパズルのようで、ピースがハマった瞬間はなんとも言えない快感が得られること請け合いだ。
2つ目の美味しさ
→ 誰かとアレコレ予想し合うディスカッション
本作にはゲーム内辞典機能があって、発見した単語はそこへ単語帳のようにどんどん追加されていく。
プレイ中に予想した単語の意味はその辞典にキーボード入力でき、その一覧は周回プレイ時にも引き継がれる。
おそらく1周目だけで全ての語彙を埋めることは不可能だし、イベントの分岐もあり得る以上、複数周回することは避けられない。
1周目でじっくり考えながら進めても3時間程度で終わるボリュームなので、周回それ自体は全くストレスにならないはずだ。
むしろ、もっと語彙を増やしたいと思うに違いない。
7日間をひと通り過ごし、ある程度語彙が埋まった状態で序盤の会話を読み直すと、また印象が変わってくるのも面白ポイント。
この2週目以降のプレイでおすすめしたいのが、「誰かと一緒に考えてみる」協力プレイだ。
人間は常に認知バイアスに支配されている。
一度抱いた印象から離れることが難しいのだ。
その状態で2周目に入っても、思うように語彙は増えない。なぜなら一度埋めた単語は「正しい」前提で考えてしまうため、残りの空白部分を「それ以外の意味」で当てはめることになるからだ。
そこで、自分以外の視点を導入しよう。
同じシチュエーション、同じ文章を眺めても、受け取る人間が変われば解釈も変わってくる。
そうすると自分が漠然と正しいと思っていた単語も、実は違っている可能性が容易に浮き彫りになるのだ。
筆者も実際、友人とDiscord越しに相談し合いながら進めていくことで新しいイベントを発見したり、新しい解釈の可能性に気付かされる場面があった。
筆者「ここで〇〇って言うってことは××だと思うんだけど、そうすると別の場面で意味が通らなくてさー」
友人「その〇〇、もしかして△△な可能性もあるんじゃない?」
筆者「そ れ だ」
こんな具合で新たな「気付き」が得られる。
言葉を推測するという特異なゲームを一緒にプレイしてくれる友人を用意する、このハードルの方が人によっては何よりも高くなるかもしれない……が、是非誰かとワイワイガヤガヤとディスカッションしてみて欲しい。
3つ目の美味しさ
→ 翻訳辞典を完成させてなお解釈性に富む物語
独力で考察する1周目
協力で視野を広げる2周目
言葉と向き合って2周もすれば、単語帳も8割がた埋まってくる。
「それだけ埋まれば、もう話の内容なんて余裕で理解できるでしょ?」
と思った人にこそプレイしていただきたい。
ぜんぜんそんなことないから!!!!
少し余談になるが、言語学の分野で「ガヴァガイ問題」と呼ばれる話をご存知だろうか?
(ガバガイ、ギャバガイ等表記ゆれ有)
内容を簡単に抜粋すると、
というもの。
直感的には「ガヴァガイ」が「ウサギ」という動物種を示す一般名詞に感じられるが、もしかしたら「飛び出す」という動詞かもしれないし、「耳が大きい」という形容詞かもしれない。
これらを他のシチュエーションとの組み合わせで絞り込むことはできても、本当にその意味で原住民が使っているかどうかは我々にはずっと分かり得ないのだ。
これは空想の未知言語に限った話ではなく、現存する言語間でも起こっていることだ。
例えば日本語では「蝶」と「蛾」を区別して呼ぶが、フランス語ではどちらも「Papillon(パピヨン)」1語で説明してしまう。つまりPapillonを、その語がフランス人に与えるイメージを全く損なわず日本語に落とし込むことは不可能なのだ。
逆に日本語では「ワニ」とひと括りにしてしまう生物も、英語圏では「Crocodile」と「Alligator」で区別している。彼らがそれぞれ使い分ける感覚を、我々日本人はどう頑張っても体得はできない。
本作で言えば、
未知の言語体系を翻訳する都合上、「赤髪の女性が何と言っているか」を真の意味で知ることはできない、ということになる。
プレイヤーが知れるのはあくまで、そのプレイヤー固有の「解釈」であり、もしかするとそれは誤解を伴ったままの理解かもしれない。
だが、それで良いのだ。
それを後押ししてくれる制作サイドのメッセージが、プレイ冒頭の説明にも表れている↓↓
「二人の関係は貴方が感じた言葉によって構成されます」
「貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう」
例え単語帳が全て埋まったとしても、万人共通の「答え」は存在しない。
「そういうことなのかな?」
「実はこういうことなのかもしれない」
「ああいう可能性もあり得るよね」
プレイヤーの数だけ、解釈がある。
たった7日の時間から、彼女らの人生や時代背景まで想いを馳せることもできる。
それが、7 DAYS TO END WITH YOUというゲームだ。
おわりに
いかがだっただろうか?
「この面白さはやってみないと分からない」という宣伝文句は有名だが、それで匙を投げては初見さんがやろうと思えない。
そう考えた筆者は、深刻なネタバレをしない範囲で可能な限りこの面白さを伝えようとしてみたが、うまく伝わっただろうか。
昨今のスマホゲー・コンシューマソフトのようなド派手な演出や精緻なグラフィックは無くとも、唯一無二の面白さを味わえる本作の魅力が、少しでも届いてくれれば嬉しい限りだ。
そして「面白そう」とちょっとでも感じた方は、ぜひ遊んでみて欲しい。
Steamでは 790円
switchでは1,180円
でお手軽価格となっている。
サクッとダウンロードして、この身近で奥深い「ことば」の世界を体験していただきたい。
それでは、今回はこのあたりで。
筆者は他にも不定期でゲームや映画の感想を書き殴ったり、
一次創作で物語を書いたり、描いたり、文学フリマという同人誌即売会に参加したりしてます
普段はX(Twitter)に生息してますので、フォローお願いします!!
⇒ @Suzumori_mamoru
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