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オリジナルの十三徳を考案することの意味



はじめに

以前、このNoteでベンジャミン・フランクリンの十三徳を、自己批評の習慣に活かすことができるという趣旨の記事を書きました。

その記事で、私が編集したフランクリンのQuestionを紹介しました。
次のようなものです。

フランクリンのQuestion (編集版)
Q1. (節制)腹八分目で食事を終えたか?
  油ものや間食を控えたか。
Q2. 自他に益なきことを語らなかったか?駄弁を弄しなかったか?
Q3.自他に益なきことに金銭を費やさなかったか?
  浪費しなかったか?
Q4. 時間を空費しなかったか?時間を有効に使えたか?
Q5.人に対して誠実に接することができたか?
Q6.身体・衣服・住居を清潔に保てているか?
Q7. 日常のコントロール外の出来事に平静を失わなかったか?

オリジナルの十三徳を考案する

フランクリンの十三徳は200年近く前に考案されたにも関わらず、現代に十分通用する内容だと思います。
しかし、その内容を自分で具体的に肉付けすることもできます。
つまり、若干編集するだけでなく、オリジナルの徳を自分で考案することができるのです。
そう、オリジナルの十三徳を考案する。
この視点に気づかせてくれたのは、次の本です。

この本で、著者の齋藤孝先生は、フランクリンの十三徳をオリジナルで考案することを奨めています。
十三という数字にこだわる必要もなく、5個でも、10個でもいいし、徳の内容もフランクリンが考案したものと必ずしも同じである必要はない、と。
齋藤先生は、ベーシックな「徳」の例をいくつか挙げています。
「向上心に刺激を受ける」「上機嫌」「言い過ぎない」「褒める」がその例です。内容の解説を読みましたが、とても参考になりました。
特に「向上心に刺激を受ける」がいい。

私自身も、オリジナルの十三徳を考案してみました。その内容を語ってみたいと思います。

十三徳にはどのような目的があるか

その前に、フランクリンの十三徳は、そもそも何を目的にしているのかという点を簡単に整理します。
私は以前の記事で、フランクリンの十三徳樹立を「持って生まれついている好ましくない癖や習慣を、意識的かつ計画的に変え、人間的に成長しようと努力した証。フランクリンの自己改善の記録」というように解釈していました。
この解釈そのものは今も変わりませんが、新しく付け加えるなら、この時代に「自分をいかに律して生きていくか」、という一言に尽きるのだと思います。
自分を律して生きる、という考え方そのものは、決して珍しくありません。ストア派の理念でもあります。古くて新しいマインドセットなのだと思います。
また、これは規矩でもあります。規矩とは、「きく」と読みます。
「自分の行動を規制するための基準」だと、
戸田山和久著『教養の書』で村上陽一郎先生の『あらためて教養とは』から引用して説明されています。つまり、自分を律するためのマイルール、と言えます。
その視点でいえば、フランクリンの十三徳は、彼が自分自身を教養するために自らに課したマイルールだとも言えます。
これはこれだけ変化が激しい世界に生きる私たちにとっても十分に意味のあるアイデアだと思いませんか?
いわば、「君を教養するのは君自身だ」という発想です。ちなみに、フランクリンは決して育った環境に恵まれていたわけではないにもかかわらず、創意工夫の独学で自分自身を教養して偉大なことを成し遂げた知識人となりました。

十三徳を実践する上での留意点

オリジナルの十三徳を日常で実践する上で、留意しておきたいと考えるポイントがあります。
それは、完璧主義に陥らない、ということです。
フランクリンが『自伝』で述べていますが、彼は、十三徳を立て、習慣化し、それを生涯にわたり、貫こうとしてきたことに意味がある、と考えていました。
つまり、この徳を日常で実践し続けたからと言って、完璧なまでの徳を兼ね備えた人間になることは極めて難しい、ということです。
習慣化しようと努力することに意味があります。この十三徳を考案し、日常で行動に換えることに意味があります。
そのためには、例えば、一日の終わりにその日を振り返り、日誌や日記を付けることを習慣化することで、改善点や成長している証を見つけ、日々、活かし続けることも有効な方法の一つです。
私の場合は、先述した齊藤先生の著作のアドバイスを参考に、自分の手帳で十三徳の実践記録を管理できるようにしました。フランクリンが行ったように、1週間単位を目安にします。
また、そもそも十三徳とは、立てた時点では、自分に不足しているもの、これから習慣化したいものを選んでいるはずなので、そんなにすぐにはその徳を達成できたと感じることはないかもしれません。もし一日か数日ですべての徳が達成できたと思ったとしたら、私なら、逆に疑ってしまいます。

私の十三徳の紹介

最後に、私の十三徳を書いて終わりたいと思います。
自分で一から考案したのは、5つほどです。
歴史上の例にもれず、完全な独創というわけではないです。数冊ほどの書物を参考に手書きで考案しました。
具体的に紹介したいと思います。
「知的生活」「睡眠ファースト」「謙虚心・謙譲」「人の美点に目を向ける」「話は上手に手短に」「ストア派(一日を振り返る)」

・知的生活
これはハマトンのインテレクチュアルライフから影響を受けています。
先述した齋藤先生の「向上心に刺激を受ける」とも近い内容です。というより、そのアイデアも加えました。
具体的には、「毎日2時間の良質な読書を確保する。これに加え、毎日1時間の語学学習の時間を確保する。」というものです。
2時間の良質な読書というのは、忙しい社会人であっても、この程度なら確保できるとして、毎日2時間、規則正しく最良の書を精読するだけで、一年間続ければ700時間以上になる、「これだけの時間、継続して何かに打ち込むことができれば相当なことができるはずだ。」とハマトンが語っているのを読み、刺激を受けたことによります。
ちなみに、語学学習というのは、私の場合、英語です(私の英語のレベルは高校の初級に達しているかいないかのあたりだと思います。)
日課は、この他にもあるのですが、基本のフォーマットはこのようになります。時々、語学が数学だったり、クリティカルシンキングの訓練に代わることもあるでしょう。とにかく、日常で向上心に刺激を受けたり、学ぶ時間を作る、というのをポイントにしています。

・睡眠ファースト
睡眠は知的生活の基本です。「一日の知的生活の質を左右する最も重要な要因は、前夜の睡眠である。」とハマトンが言っています。
仕事や勉強のパフォーマンスの質も、前夜にどれだけ良質な睡眠をとれたかに大きく左右されるということでしょう。
これに加え、「睡眠・運動・朝散歩」も実践し続けたいと思っています。
精神科医の樺沢紫苑先生がこの三つを柱にして、体調とメンタルを整えるというアイデアをYouTubeで語っていました。
しっかりと睡眠をとり、適度な運動を習慣化し、毎日朝起きたら日光を浴びる。これは知的生活の基本でもあると思います。

 ・謙譲、謙虚心
これはフランクリンの十三徳の「謙譲」が由来です。
「イエスおよびソクラテスを見習うべし」というフランクリンの言葉に尽きると思います。ただ、私の「謙譲」は次のようなものです。
知識においても、態度や言動、立ち居振る舞いにおいても、徹底した謙虚心を心がけよ。「無知を恐れてはいけない。偽りの知識を恐れよ。」というパスカルの格言をつねに心に銘記せよ。
『THINK AGAIN』で著者のペンシルベニア大学ウォートン校教授、アダム・グラントは、知識はパワーであるならば、無知を自覚することは英知だ、と述べていました。
無知は出発点であり、無知を自覚することで、人間はより多くのことを学び、より賢くなろうと成長し続ける。偽りの知識とは何か。知ったかぶりはその最たる例でしょう。
パスカルの名言とは別に、ロジャー・ベーコンの次の名言も、謙虚心を奮い起こしてくれる言葉です。
「人間は賢明になればなるほど、ますます腰を低くして、他人から学ぼうとする。」
謙虚な態度で、他者に接することの大切さを認識させてくれる言葉ですね。
ただ、余談ですが、謙虚さと卑屈さは全く別物だと思います。自信と謙虚心のバランスが大事なのだと先述したアダム・グラントの著書で認識しました。

・話は上手に手短かに
これは、フランクリンの十三徳のうち、「沈黙」の徳と内容は同じですが、ニューヨーク市立大学教授で哲学者のマッシモ・ピリーウチさんが『迷いを断つためのストア哲学』(早川書房)で説明していた考え方を参考にしました。
フランクリンは、「自他に益なきことを語るなかれ」という表現にしていますが、それと同じで、自分にも他人にも有益な会話を心がけるという意味です。
ピリーウチさんは、有益な会話の例として、読んだ本や見た映画など、中身のある会話が大切なのだと語っています。
一方で、避けた方がいい会話とは何か。
その例も挙げています。噂話やスポーツ選手や映画界のスターなど、有名であるがゆえに有名な有名人についての話、セレブについての話などです。
より深く理解したい方は、この本を読んでみてください。
また、その場にいない他人についての批評も避けたほうがいい会話として説明されています。ピリーウチさんは、ストア哲学の文脈でこうしたルールを整理しています。決して、独断というわけではなく、哲学的な思索の成果なのだと思います。

おわりに

いかがだったでしょうか。
フランクリンが十三徳を樹立したのは25歳の時ですが、生涯揺るがなかったのだと『フランクリン自伝』を読んで思いました。
私自身は、フランクリンの足元にも及ばない凡人かもしれませんが、優れた人生の教科書である、『フランクリン自伝』を読むことによって、よりよい人生とは何か、人生においてほんとうに大切なことは何かを学び、自身を教養し続けたいと奮起することができました。
フランクリンも、数えきれないほどの失敗をし、幾多の困難を乗り越えました。だからこそ、生身の人間として、慕うこともできるし、人生の知恵に富んでいるだと思います。


ご清聴ありがとうございました。

【参照文献】

フランクリンが十三徳を習慣化した方法がこの記事でわかりやすく説明されている。1週間単位で行うことがポイントです。






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