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最初の就職の話 ⑥

ついに母にお金の相談ができないまま、新入社員歓迎会当日が来ました。
会費が4500円のところ、財布には2000円弱しかありません。
当日ではありますが、体調不良ということで断ろうと決めたその時でした。
姉の知り合いでもある経理部長が入力している私のほうへ現れました。
「今日は若い人みんなで食事会へ行くのね。楽しみね。」
「はい。」
私は笑顔で頷くしかありませんでした。
「みんな定時上がりで着替えが混むだろうから、経理の更衣室を使ったらいいわよ。」
親切な提案をして下さって、そこからもいつもより朗らかな感じで会話をして、まさかこの後、私が自らの歓迎会を黙って欠席するなど誰も夢にも思わなかったと思います。

私は帰りの電車の中、心に言い聞かせました。
確か、高校の部活(美術部)のOB会でも待ってた後輩がついに現れなかったなんてことがあったし、私の友達は雨が降れば気分が落ちて約束をドタキャンしてたし、大丈夫、きっと大丈夫と。

翌朝、出勤すると、当然冷めた空気が私を包みました。
そして、経理部長が私の前に現れひと言。
「あんなに楽しそうにしてたのに、行かないなんてことがあるかしら?信じられないわ。」
私はやはりそうか‥と胸苦しい気持ちになりながら、その日は俯いたまま仕事をこなし、当然、昼食後の喫茶店に付いていくこともありませんでした。

常々お金の貸し借りは駄目だと言われていた職場ですが、幹事に事情を話し、借りれば良かったのかも知れません。
もしかして、新入社員は会費はなしだったということも有り得ます。

いろんな考えが巡りましたが、後の祭りでした。

翌朝、私は職場に欠勤する旨を伝えるために電話をすると、経理部長が出てきました。
「あまりにも頻繁に休むようなら、体調不良を証明できる診断書を提出して下さい」と。
今の時代なら、適応障害ということで診断が下る場合もあるでしょうが、当時は精神科へ行くというのはかなりハードルが高く、また母が許さないであろうから無理でした。

明日出勤したら、当然診断書はどうしたのかと言われるだろう。
それにあんなこと(新入社員歓迎会の無断欠席)があった後では気まずい。
そのときに明日から無断欠勤をしようと心に決めたのでした。

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