2度目の就職の話 【薬局編 ⑦】
入社してひと月ほどが経ち、私はますます焦りと緊張、そして不注意からのミスを繰り返してしまうようになりました。
そのたびに桐島さんに叱責され、隣の受付からは私の噂話が聞こえてくるようになりました。
ある残業の日、薬局のプリンターから打ち出された患者様に渡す投薬の説明の用紙が消えてしまいました。
「ない、ないわ。」
「そんな消えるはずないじゃないの。見つかるまで探して。」
薬待ちの患者様は薬局窓口の前で、いらいらを募らせています。
そして、桐島さんと私のやりとりを見ていた上村さんと岩橋さんのふたりが、いつものようにこちらをちらちらと窺いながら噂話をしています。
私は真っ先に隣の受付のふたりを疑いました。
集めてきた薬の確認などで、桐島さんと私のふたりが薬局の奥にいたときがありました。
その間、どちらかが薬局に侵入し説明書を隠したのだろうと思ったのです。
今、思えば、何のメリットにもならないようなことをふたりがするはずはないのですが、その時は本気でそう思っていました。
私は上村さんと岩橋さんに向かっていいました。
「説明書、知りませんか?」
「は、そんな知るわけないじゃないの。」
興奮気味に反論するふたりを見て、私はますます怪しいと思ったのですが、次の瞬間…。
「出てきたわよ。ちゃんと見てよ。」
桐島さんが説明書の控えの束の中から見つけ出したのです。
「そんなことだと思ったわ。」
「いい加減にしてよね。」
心当たりのない疑いを掛けられた受付のふたりはきつい言葉を私に投げかけました。
そして、その数日後、事件は起こりました。私が受付と薬局のみんなのマグカップを洗っている最中に手を滑らせ、上村さんのマグカップを割ってしまうのでした。
前職のときと同じミスをまた繰り返してしまったのです。
前職のときは優しいかただったので許してくれましたが、今度は私に対する当たりの強い上村さんです。とても許してくれるとは思えません。
しかも、このあたりでは見かけないキャラクターの絵の入ったマグカップで、かなり思い入れのあるもののように見えました。
私は勇気を出して、
「申し訳ありません。」と上村さんに謝ると、
「申し訳なく思っているように見えないわ。もういいわ。」と立腹して去っていきました。
私はもう無理だという思いで、弁償を考える余裕もなく、明日休むべきかどうかということだけが頭を過っていました。