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【面白かった】「俺の家の話」第4話、能を稽古した人間から見た感想

最近やってる、長瀬智也主演・宮藤官九郎のドラマ「俺の家の話」。

これ、「主人公の家系が能の宗家・・・!」ってことで、能楽界隈でもザワついているとかいないとか。

能なんて、大半の方にとっては縁遠い世界でしょう。ええ、私もそうでした。大学時代に、宝生流の能楽部にうっかり入部してしまうまでは・・・。
今では稽古もお休みしておりますが(あくまでも「お休み」のつもり。あと30年もしたら再開してると思う)もはや「能」というキーワードを見かけるだけで「おっ!」と一方的な親近感を抱くまでになっております。

ということで、「俺の家の話」、見てみました。
第4話から!(おい)

いやはや、面白かったです!
特に、能をちょっとでも知ってから見ると、また二重に面白いドラマだと思いました。
そのあたりの感想を書いていきたいと思います。

◆新作能「寿限無之落前」やべえ

いきなりここから入りますが、ドラマの途中に突如として出てきた新作能、その名も「寿限無之落前」。

第三話でも新作能があったみたいですが、前情報のない私は「え、なに!?こんなのアリなんwww」と鼻息荒くなりました。

能はもともと、二百曲ぐらいある物語(謡本)をもとに上演されています。それ以外に、クリエイティブな能楽師の方が“新作能”を創作され、年に一二度、披露されます。
(私が稽古してた頃には「マクベス」って新作能がありました。出だしのワキ謡が『これはスコットランドに住む~』から大真面目に始まります)

能を一曲つくるには、それはそれはもう、相当の準備と資金と想像力・創造力が必要だという考えがあったので、いちドラマで新作能!と衝撃でした。

いやこれ、ほんと凄いなぁ。

何がって、ちゃんと装束着たシテやワキっぽい人がいて、ちゃんと地謡がいて、能の形式を踏襲しているんです。
(さすがに赤子を抱いた能はないけど・・・)
謡の節も考えられてる。観世流ですね。
寸劇とはいえ、相当の準備がなされている印象でした。

そもそも、能の構成自体が「過去の話を語り始めて、幽霊が再現する」的な設定がほとんどなので、実は回想シーンに能の話をあてるというのは、非常にマッチしていると思うのです。

学生の能楽部の面々は、コロナにより新歓で苦戦していると聞きますが、新歓で新作能をパロディすべきだと強く思いました(大真面目)。

下手なクセ舞をやるよりずっといいよ!ウケると思う!

◆舞台が宝生能楽堂という既視感

そしてドラマでは、能楽堂で「YES!子供だって能」のイベントが開催されます。
(能と「No」をかけるネーミングセンスよ)

めっちゃ見覚えある・・・と思ったら、ここ、宝生能楽堂・・・?!
いや、でも東京に能楽堂なんて幾つもあるし、違うかも・・・。

私は宝生流なので、宝生能楽堂での舞台を踏んだことがあり、楽屋にも入ったことが何度もあります。
配置とか、背景とか入り口とか、もしかしたら、もしかしなくても、宝生能楽堂・・・

(でも観世流だし・・・そこはあれですかね、流派ごとの配慮?稽古監修は観世流、舞台は宝生流、みたいな)

何て言うんでしょう、「あーそこ!行ったことある!楽屋のその長机とかポットとか!」という、勝手な既視感で楽しんでしまいました。

◆格式ある『道成寺』がネタ化

ドラマ内では、楽屋にある巨大な鐘のセット内に誰かが隠れています。

『道成寺』やん・・・これ『道成寺』の鐘やん!

『道成寺』は、有名かつ非常に派手な演目なので、初めて見る人にもオススメの曲です。
ただ、演じる側としては稽古を積まないと演じられないため、初めて『道成寺』を披く(=演じる)ときには「おめでとうございます!」とランクアップを祝う風習もあるくらいです。
なお、私みたいな素人のお稽古では、とてもできるような演目ではありません(当たり前)。

そんな『道成寺』の鐘でかくれんぼ・・・。
お弟子さんたちが、いつも懸命に作られているという鐘の中でかくれんぼ・・・。
ドラマがなせる技ですね。多分、本物の宗家も、小さい頃はきっと・・・。

◆『小袖曽我』で兄弟の話とかアツすぎる

第4話の終盤、主人公の寿一が『小袖曽我』を舞うシーンがあります。

『小袖曽我』は曽我物で最も有名な曲で、仕舞としては「最初の仕舞が終わったね!じゃあ次は『小袖曽我』やろうか」ぐらいの、初心者向けの仕舞です。そのため、「ちょっと稽古やってやめました」ぐらいの人でも、あ、稽古した!という覚えがある曲でもあります。

この仕舞の特徴は、一人で舞うこともできるし、ドラマみたいに二人で舞うこともできる点です(二人で舞うのを『相舞』といいます)。
能の演目では、曽我十郎と五郎の兄弟が二人で舞う設定になっています。

ドラマでは、寿一が仕舞を舞いながら昔の稽古を思い出します。
ライバルであった寿限無と一緒に相舞の稽古をしたときのシーンを。

「そうか・・・あのとき、俺たちは、兄弟で舞ってたんだな」と。

いや~。。。胸アツですな。
曽我シリーズの兄弟は、お兄ちゃんが少々やんちゃな感じで、弟の方が冷静なキャラです。
そんな二人が協力して敵討ちをし、本望を遂げる。兄弟愛がアツイ能。
だからこそ、能が単なるドラマの小物ではなく、『小袖曽我』という曲の特性を踏まえた形でドラマ内で活かされていることに感動を覚えました。

また相舞は、二人の行きがピタァァぁあっと合うことが素晴らしいとされています。
お互い向き合ったり、正面を向くところが、タイミングを合わせよう!とされているのが伝わってきました。
途中の拍子を踏むところも、扇をふわっとさせるユウケンっていう型も、さすが普段からダンスや舞台をされている方といいますか、華やかな感じ。
稽古されてるんですねぇ。凄いなぁ。

◆その他、個人的なお気に入りポイント。

そのほか気づいた、能業界あるある。

お母さんが楽屋にやってきて、息子の袴を「ほら!曲がってる」と直すシーン。
(ドラマでは江口のりこさんがやってました。いますよこういうお母様・・・)

袴をはくときは、前下がりでピシッと着付けるのがよいとされているので、お母様が気にされるのも分かります。
この袴の着付け、主演の長瀬智也さんは凄く格好よくて(帯が後ろできゅっと上がっている)見惚れました。

まぁ、一番似合っているのは西田敏行さんなのは言わずもがな。

◆総評:次も見たい。次も見ます。

ということで、第4話から見始めた「俺の家の話」ですが、次回も見ようと思います。
次はどんな新作能が出るのやら。ワクワク。

ともあれ、民放が2局しかない宮崎県ですが。
TBS、映って良かった!!!(切実)


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