トイストーリー的な4歳娘の「To infinity...and beyond!(無限の彼方へ!)」
「おかあさん、ろけっとにのろう」
4歳の娘が生み出す世界は、いつも唐突だ。
「ロケット?」
「こっち、こっち」
通称「ふとんのへや」と呼ばれている、その名そのまま布団が敷いてある部屋に連れて行かれる。
「はーい、ろけっとはっしゃしますー。はいってくださーい」
娘が羽毛布団に潜り込み、手の先だけぴこぴこ出して私を誘う。枕元には、ノベルティでもらったキーホルダーと、洗濯ばさみと、クレーンで取ったバスのクッションが並んでいる。
私が隣の布団に入ると、娘が亀のように顔を出し、手に持っているメモを見せた。
「どこに、いきますか?」
そこには、娘が書いた謎の象形文字が書かれている。
「何て書いてあるの?」
「えーとね。これが、ぼくじょうで、ぱんやさんで、おむらいすやさん」
一見(一聞?)無節操なようだが、すべて娘が行きたいであろう場所だ。
「じゃあ、パン屋さん」
「はい。まずは、ぼくじょうにいきましょう」
なんで聞いたんや。
「いきますよ。ぽちっ、ぽちっ」
キーホルダーの先をバス型クッションにばふんばふんと押しつける。
「さん、に、いち・・・はっしゃ!」
娘は口で「ぶーん」と言いながら、静かに布団の中で待機している。私も布団で縮こまる。
「つきましたー!」
娘は布団をはねのけ、満面の笑みで立ち上がった。
「うわー、すてきなぼくじょうに、ついたわねー!さあ、いきましょう」
腕を広げて空を仰ぎ、顔の前できゅっと手を組む。そして私の手をつかんで少し歩くと、足下でしゃがみ込む。
「みて、やぎさんがいるわ。かわいいねー」
やぎさん。牧場だもんね。
「えさをあげましょう」
「へえー。やぎさん、何食べるの?草かな」
「うどんよ」
娘は真剣だ。
「ほら、みて!おいしそうよぉー」
両手ですくって(うどんの器だろうか)、それをやぎとおぼしきものがいる場所に向けて掲げている。
「わたしたちもたべましょう、こっちこっち」
そうして、うどんタイムに突入する。敷き布団の上に向かい合って座る。
「はい、おはし」
洗濯ばさみを手渡される。
「いただきまーす」
ちゅるちゅる、ちゅるちゅるとうどんをすすり、娘はほっぺたをおさえる。
「おいしーねぇー」
この、想像力。
表現力。そして実行力。
コロナ騒ぎで登園できなくても、家にロケット装置がなくても、牧場やオムライス屋さんに行けなくても。
バスタオルを肩に掛ければマントになるし、腰に巻けばプリンセス。
ロケットに乗って、宇宙を旅して、いつでも何度でも好きな星へと行ける。
まるで、トイストーリーに出てきた、ウッディとバズと大喜びで遊ぶ女の子のようだ。
確かバズの決めぜりふも「無限の彼方へ、さあ行くぞ!(To infinity...and beyond!)」だったはず。
「はい、かまぼこあるわよ。どうぞ」
「うん。ありがと」
「うふふ。どういたしまして」
私を、こうして無限の彼方へ連れて行ってくれるのは、あとどれくらいだろう。
ほんの数年か。もしかしてあと1年ぐらい。
ひょっとしたら明日、ぱったりと遊ばなくなるかもしれない。
そのことがたまに、たまらなく切なくなって、今この瞬間を全身で感じておきたいと思う。
かわいいな。
かわいい。
今、このときを心に留めて、この先の人生も無限に頑張りたい。
「さあ、つぎへ、いきましょう!ろけっとにのって!」
「うん」
つないだ手は、まだまだ小さく柔らかい。
でも、すぐに大きくなる。
さあ行こう、無限の彼方へ!
この記事が参加している募集
「おもしろかった」「役に立った」など、ちょっとでも思っていただけたらハートをお願いします(励みになります!)。コメント・サポートもお待ちしております。