あの人に見せたい
私はカメラを持っていない。
40年以上生きて来た中で、自分のカメラを持っていたことがない。
それなのに写真が好きだ。
自分で写真を撮ることも、誰かの撮った写真をみることも好きだ。
カメラを持たない私は、もっぱらスマホでの撮影である。
写真の撮り方を勉強したこともなく、ただただ自分の好きなものを好きなように撮影している。
家族や友人や好きな人に見せたり、Twitter(今はXか)に投稿したりしている。
時には患者さん達に写真を見せることもある。
私は精神科看護師として働いている。
精神科には、外へ出ることの出来ない患者さんや「ごく小さな窓」からしか空を見ることが出来ない患者さんもいる。
そういった患者さん達に「外の世界の美しさ」や「変わる季節」を見てもらいたいという気持ちから写真を撮る。
昨年4月、ギランバレー症候群を発症してから手足に後遺症が残った。
急に手足が脱力したり、体が後方に突っ張ってしまうことがあるため、外出時は杖を使っている。
杖をついていると写真は撮りにくい。
私は杖を股の間に挟み、バランスを取りながら写真を撮る。
私のジャンルは杖挟みカメラマンだ(?)。
私は専門的なことは何も分からない。
ただ自分が「きれいだな」「美しいな」と思ったものを「あの人に見せたい!」という衝動でシャッターボタンを押す。
花を撮るときには不思議なことがある。
たくさん咲いている花をじいっと見つめていると、ふいに花がこちらに笑いかけてくれるような瞬間を感じることがある。
ふんわりと、にっこりと。
そんな瞬間のお花の写真たち。
ちなみに花と同じくらい、いやそれ以上に葉っぱが好きである。
空や雲や花や木々に葉っぱ。
美しいと感じるものがあり、それを共有したい大切な誰かがいる限り、私は杖を股に挟んで写真を撮り続けることだろう。
私にとって写真は「上手いかどうか」は関係なく、どれほど下手くそな写真でも大切な誰かが喜んでくれるならそれが1番うれしいことだ。