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【小説】 火焔ブレイクダンス

 タケルはツイていないので、何をやってもうまくいかなかった。小学校の入学式で名前を間違えられて呼ばれたことに始まり、家族で言った旅行で一人だけ食べ物でお腹を壊したり、手違いで陸上部に入れらてしまったり、一日で二回も鳥の糞が落ちてきたりした。そんな彼は専門学校に通う19歳の青年になった。しかし、相変わらずツイていないので、何をやってもうまくいかなかった。

 冬のある日、友達のテツと一緒に歩道を歩いていた。前日に雪が降ったので、歩道は滑りやすくなっていた。テツはタケルの高校時代からの友達である。タケルほどではないが、テツもなかなかツイていない。だから、二人はすぐに気が合った。と、テツが歩道で滑って転んでしまった。転ばないように慎重に、慎重に歩いていたのが逆に仇となったのだった。

 タケルはその姿を見て大笑いした。いつも自分に不幸ばかり訪れるから、他の人が不幸になっているのを見るのが大好きだった。二人で互いの不幸を笑いあう関係だったから、別にテツも悪い気はしていなかった。ただ、よほど可笑しかったのか、タケルはずっと笑っていた。そして、笑いすぎて体を大きく仰け反らしてしまったために、派手に滑ってしまい、転びそうになった。

 しかし、タケルは意地でも転びたくなかった。テツのことを大笑いした手前、自分が転ぶわけにはいかなかった。何とかして体を立て直そうとするたびに、余計にツルツルと滑ってしまう。転びそうで転ばない、そんなタケルを見てテツは大笑いしだした。

 結局、タケルは転んでしまった。彼の抵抗も無意味に終わってしまった。むしろ、彼が抵抗したために、テツよりも勢いよく派手に転んでしまった。その転びっぷりは、ブレイクダンスを踊っているようだった。テツは必死な顔でブレイクダンスを踊っているように転ぶタケルが面白くてたまらなかった。タケルは本当にツイていないのだと実感した。

 しかし、実際は逆で、彼はツイていた。というのも、偶然にもその様子が世界に配信されることになり、タケルを一躍時の人にさせたからである。それは、その様子が、とあるニュースの取材に来ていた海外のテレビによって偶然放映されたからである。真剣な顔でレポートをするニュースキャスターのうしろで、派手に転ぶタケルは海外で大ウケだった。有名な新聞で「彼はあまりの寒さに体全身で火起こししているようだ」という記事が出たりもした。

 逆輸入のようなかたちで、日本のテレビでも取り上げられ、取材が来たりもした。有名な女優や芸人に会うこともでき、ブレイクダンスを習うという企画が組まれたりもした。タケルが人気者になったようで、テツもうれしかった。ただ、実はタケルの前に転んでいたテツの映像も残っていて、テレビで一緒に紹介されたりした。それで、ちょっとテツにも取材が来たりしたから、まんざらでもなかったのだった。

 こんなことが起こるんだな、と二人はファミレスでグダグダと話をしていた。所詮は時の人で、ブームはすぐに去っていた。「もう一回バズらないかなー」とタケルは呑気に言った。「今度は全く別のものにしよう。でも、バズるなら、やっぱりダンスの方がいいのかな?」タケルは少し考えてつづけた。「そうだな、フォークダンスはどうだろう?」「なんでまた、フォークダンスなんだ?」「匙を投げられる心配がないからね」

 「スプーンじゃなくてフォークだからか?くだらないな」テツはあきれたように言った。「それで、何を踊るつもりなんだ?」「そうだな、二人でオクラホマ・ミキサーを踊るとかどうだろう?」

 「それはダメだ。オクラ入りだもの」

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