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【小説】 続・ハイパー・ゴリラ・ドリル

 惑星E-473は惑星開発公社の所有する星である。ここでは、貴重な鉱物資源を採ることができる。ここで採れる鉱物資源が、人類の技術を飛躍的に進歩させたと言っても過言ではない。そんな採掘に欠かせないのが、F-3型惑星開発用掘削機、通称ハイパー・ゴリラ・ドリルである。誰かが初代をゴリラ・ドリルと言い出したのが始まりで、2代目のスーパー・ゴリラ・ドリルの次だから、ハイパー・ゴリラ・ドリルと呼んでいるのである。

 なぜ、ゴリラ・ドリルと呼んだのか。それは、驚異的な推進力で地下を掘り進めていくからである。単純な理由だが、ゴリラ・ドリルが開発されるまでは低重力下での掘削作業は至難の業だった。掘削するエリアの四方を囲い、地中深くまでアンカーを打ち込み、重力発生装置を設置することで、ようやく作業をすることができた。しかし、ゴリラ・ドリルはそうした過程を経ず、掘削作業ができるのである。その姿を見た作業員の驚きたるや、想像に難しくない。ゴリラ・ドリルという愛称は自然に生まれたものだった。

 あるとき、いつも通りハイパー・ゴリラ・ドリルで掘削作業をしていると、何か硬い物体にぶつかった。初めはマントルにぶつかったのだと思ったが、どうやら違うらしい。恐る恐る見てみると、その正体は人工物のようであった。未知の物質でできており、調査の結果、金属の一種であること以外は何もわからなかった。しかし、偶然にも内側が空洞になっていることが発見された。強固な金庫をこじ開けるように、ハイパー・ゴリラ・ドリルの力で穴を開け、調査をすることになった。

 流石はハイパー・ゴリラ・ドリルである。フルパワーで突進すると、簡単にぽっかりと大きな穴が開いた。その後ろに続いて、作業員は出来上がった穴から続々と中に入っていった。そこには歪な形の物体であふれた未知の空間が広がっていた。その人工物は宇宙船だったのである。作業員らは大急ぎで本部に連絡した。すると、すぐに専門の調査チームを送ると連絡があった。

 調査チームが到着すると、早速調査が始まった。大がかりな装置が運び込まれ、迅速な調査を行うために、重力発生装置を設置することになった。もちろん、その前にアンカーを打ち込んだ。「まさか、再びこの作業をする機会があるとはな。ハイパー・ゴリラ・ドリルがいかに革新的だったか再認識できるな」「しかし、この作業をするのもハイパー・ゴリラ・ドリルのおかげだというのは皮肉じゃないか」「まったくだ」作業員らは何だか楽しそうだった。彼らは世紀の発見をしたのだ。舞い上がるのも無理はない話である。

 「ハイパー・ゴリラ・ドリル、すごいぞ!」「ハイパー・ゴリラ・ドリルは俺たちのアイドルだ!」「ハイパー・ゴリラ・ドリル最高!」歓喜に包まれた作業員らは大騒ぎだった。この功績はすべてハイパー・ゴリラ・ドリルのおかげだった。

 しかし、調査チームはどこか浮かない顔だった。その理由は動力供給装置が見つけられなかったからだった。では、なぜ動力供給装置を見つける必要があったのか。それは、宇宙船の航海記録を調べるためである。航海記録を調べることができれば、この宇宙船の出自についての情報や宇宙人の情報など、様々な情報を得ることができるかもしれない。しかし、彼らは航海記録を調べようとするも、動力が供給されていなかったために、調べることができなかったのである。

 宇宙船内部の状況をみるに、かなりの年月が経過していることは推測される。そのため、生命体がいたという痕跡は残っていなかった。だから、宇宙人の痕跡は長い年月で風化したと推測することしかできない。しかし、そんな推測は調査チームのすることではないというプレッシャーがあった。彼らは、何としても動力を供給して航海記録を調べる必要があったのだった。そういうわけで、彼らは浮かない顔だったのである。

 調査チームは、重力発生装置の設置がどれだけ骨の折れる作業か知っていた。あれだけ喜んでいる作業員らのためにも、何としても動力供給装置を見つけたかった。途方に暮れながら、調査員の一人が言った。「生物の心理を考えれば、動力供給装置のような最も重要なものは、頑丈に保護しているはずだ。しかし、どこにも見つからない。この生物は違うのか?例えば、強固な金庫のような場所に保管していたりすると思うのだが」

 その言葉を聞いて、作業員らはピタッと静かになった。恐る恐る彼らは後ろを振り返った。そこにあったのは、ぽっかりと空いた大きな穴と、ハイパー・ゴリラ・ドリルだった。ハイパー・ゴリラ・ドリルは、どこか誇らしげに瓦礫に乗り上げていた。


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