見出し画像

68番① 心にもあらでうき世に         三条院

心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半よはの月かな 
                             三条院

歌意 心ならずも、このつらくはかない世に生きながらえていたならば、きっと恋しく思い出されるにちがいない、この夜ふけの月であるよ。  

   所載歌集『後拾遺集』雑一(860)     歌意『原色小倉百人一首』(文英堂)より

今橋愛記 

伏し目がちな歌。

ほんとうは この儚い世を
もう生きておりとうはないのやけれど 
もし生きながらえてしまうんやったら 
だんだんに見えなくなっている この目で
今、見ている 
夜更けの月が 恋しく思いだされることだろうよ。


同じ月を歌ったものでも 

嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな 
                         86番 西行法師

わたしが涙を流しているのは月、あなたのせいだよ。と 
月にその顔を見せるようにして泣く西行の姿はエモい。

対して三条院の歌は  

心にも あらでうき世に ながらへば 

ここまでが、
月をかくす雲のように垂れこめていて

西行のことを書くとき、
ずっと流していたドビュッシー(月の光)が流れない。

そして
夜半の月かな
この夜更けの月が わたしは うまく浮かばない。


この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?