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特別なうなぎ

私の家ではお祝い事や大事な節目にうなぎを食べに行くことが恒例行事となっている。

今までにたくさんたべさせてもらった。

大学受験に合格したとき
内定をもらえたとき
社会人になったとき

ことあるごとに美味しいうなぎを食べてきた。

世間一般ではうなぎは値段が高いので、しょっちゅう食べられるわけではなくご褒美ともいえる。

貴重な機会に値段以上の美味しさを味わって食べていたので、今でもその時々に食べたうなぎを思い出すことができる。

また、うなぎは亡くなった母が大好きだった食べ物だった。
うなぎをたべるとき一番喜んでいた。
しかし、実際に食べると「魚臭かった」など好きなはずなのに、マイナスな感想ばかりで母の好みのうなぎがいまいち分からなかった。

勿論母の四十九日の法要のときもうなぎ弁当を注文した。

こういう理由で私の家族にとってうなぎは特別なものだった。

そして今日、私の転職祝いとして父にうなぎをごちそうになった。

父は大学卒業から1社で30年以上勤め上げたサラリーマンだったので、転職することが珍しく感じていたかもしれない。

転職が当たり前の時代に「すぐまた転職するかもよ」と父に告げると、いつでもうなぎをおごってやるといわんばかりに鼻で笑っていた。

うなぎを食べる機会は少なくなったものの、口数は少なく二人でうなぎを食べるのも慣れたものだ。

父が探してくれたお店は食べログでも高評価の浅草の名店。老舗のうなぎ屋さんで家族で営んでいるいかにも美味しそうなお店だった。席数は少なくすぐ予約で満席になってしまうので事前に予約をしてくれていた。

テーブル席だったが横並びの席に案内されて父と私はうな重の上を注文した。
うなぎは出てくるまでに時間がかかる。
待ち時間は特に話すことはなく、隣の老夫婦の会話や地方からきているであろう4人組の話声が聞こえていた。

しばらくしてうな重が運ばれてきた。蓋を開けるとうなぎ特有の香りとタレで艶がかった輝かしい色をしたうなぎが顔をのぞかせる。

食べログで高評価のうなぎの味は身がしっかりしていて口の中でほぐれた。プリッとしてタレもしっかり味が付いておりご飯も進むうな重だった。本当の美味しいうなぎがこの年になり少し分かったような気がした。

私はこの転職で実家を離れる。今後一つ屋根の下で一緒に暮らす日はもしかしたらないかもしれない。

横でうなぎを食べている父はどんな顔をしてうなぎを食べていただろうか。
母がこのうなぎを食べてたらなんていうだろうか。

胸にこみあげるものを、重箱を持ち上げて米粒と一緒にかきこんだ。

「ごちそうさま」と父にお礼を言った。

あと何回うなぎを食べる機会があるだろう。
次は私がごちそうするばんだ。お祝い事や節目でなくてもうなぎを食べに行きたいと思う。

次はどこのうなぎがいいかな。

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