2001年、北条司氏のマンガ『エンジェル・ハート』には、こんなストーリーがあります。
このストーリー、妙に生々しいところがあります。それもそのはずで、これは心臓移植の実話に依拠しているからです。
心臓移植者の手記として、最も有名なのは、心肺同時移植手術を受けたクレア・シルヴィア(Claire Sylvia)さんの体験でしょう。それは、『記憶する心臓』(1998/7/1)の著書で詳細に知ることができますし、1999年6月24日には「アンビリバボー」で、2003年3月15日には「サイエンスミステリー」で放送されたので、ご存じの方も多いでしょう。それは次のような体験です。
心臓移植によって、レシピエント(臓器受容者)の好み・性格・趣味・行動・体質・夢などがドナー(臓器提供者)のものに変わってしまうという体験は決して珍しくありません。その豊富な事例は、それが「都市伝説」といった言葉で片づけられるものでないことを示しています。前記『記憶する心臓』と『心臓の暗号』(1999/9/1)から、心臓移植の体験談をいくつか取り上げてみましょう。
ドナーからの記憶についても、かなり鮮明なものがあります。その記憶の正確さは、まさにドナーそのものと言えます。
心の変化も見逃すことはできません。
クレア・シルヴィアは、療養中、自分の中にもうひとりの人間がいると感じ、ふと気づくと“わたし”と考えるべきときに“わたしたち”と考えていたりもしました。時には、はっきりと別の魂がわたしの肉体を共有していると感じられることもあったといいます。
自宅に戻ると、何もかもが前とは違っているように思えました。友人や身内にまで違和感を抱いたのです。「この人たち、いったい誰?」という思いがわき、相手の顔はわかるのに、それが誰なのかわからなくなったといいます。
ティムの家族と会ったときは、ティムの母親と誰に対しても感じたことのないような固い絆で結ばれているのを感じ、ティムの写真を胸にしっかり抱きしめました。ティムの父親は「あのときは、息子が帰ってきたような気がしましたな」と思い、母親は「あの子は逝ってしまったかもしれませんが、ある意味では今でもわたしたちのそばにいるんです」と思ったといいます。
ここで要点を挙げておきましょう。以下の三つは、心臓移植後に見られた大きな特徴です。
1.心臓移植を受けた者は、好み・性格・趣味・行動・体質・夢などがドナーのものへと変化する。
2.それは心臓が移植されたときに起きるのであって、他の臓器移植では起きない。
3.そうした変化は、好みや性格等が新たに付け加わるのではなく、ドナーのものと入れ替わってしまう。
こうした現象についてはどのように説明したらいいのでしょうか。一般的な説明としては、①心臓が健康なものに変わったから、②免疫抑制剤などの薬の作用ゆえに、③細胞記憶、といった理由が考えられています。しかし、これらでは説明が付きません。
まず、①弱っていた心臓が健康なものに変わったがために、肉体が元気になり、それがゆえの変化だという説明についてですが、運動能力が劣った例、性格が穏やかで鬱気味になった例の説明にはなり得ません。また、それが体力・気力の充実を説明するものであったとしても、好みや性格がどうして変わるのかの説明にはなっていません。
次に、②臓器移植の際に用いられる免疫抑制剤などの強い薬の作用から来る変化だという説明についてですが、上記2で挙げた、どうして心臓移植にだけ起きて、他の臓器移植には起きないかが説明できません。また、3で挙げたドナーと入れ替わることの説明は不可能です。
③細胞記憶についても、確かにすべての細胞にはDNAが存在することから考えられなくはないのですが、なぜ他の臓器移植では起きずに心臓移植だけに起きるのかが説明できません。もちろん上記3については沈黙です。
いろいろと考えましたが、これらの現象を説明するには、私たちの本質的なものを設定するしかないように思えます。これは「心」「意識」などと表現できるかもしれませんが、ここでは「魂」と表現することで先に進めましょう。
(※続きは次の記事をご覧ください)
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