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95話 扉の移動

ドミノとシイナは少しの休息をはさみ、再びコントラとしての役目を果たす為、夢の集まる場所へ向かった。ファミリーが夢を解体する為に通る8の巣の中心フロアへ…と。

※ ※ ※

8の巣フロアの中心はまだ相変わらず騒然としていた。シイナが蹴り上げたハンマーがガラス窓に突き刺さったままで、そこから長く伸びるひび割れは依然と比べ大きくなっている様に見えた。

「あ! ドミノ! おーい!」

そういわれ振り返ると、そこに懐かしい顔があった。運び屋・アネモネが人混みをかき分けてドミノたちへと近づいてきた。大きな絨毯を両手で担ぎ嬉しそうに掛けてくる。

「アネモネ。お久しぶりです」

ドミノも笑顔でアネモネに一歩近づき頭を下げた。

シイナはドミノの表情が少し緩んだ事に気がついた。それは心許した者へ見せる顔だと知っている。

大人の顔はよく観察して来た方だった。怒っているのか、喜んでいるのか、言葉を間違えば体罰として身に危険が及ぶ。ドミノの顔は表情が変わらず、何を考えているのか分からない所があった。しかし、少しの変化でも読み取れる様になったのは、それだけ長い時間ドミノの顔を見てきたシイナの観察癖のおかげだった。

「元気だった? コントラとしての仕事は順調?」

アネモネは相変わらず元気いっぱいの笑顔だった。

「おかげ様で。シイナ、こちら運び屋のアネモネです」

急に名前を呼ばれてシイナは慌ててドミノの隣に駆け寄った。

「は、初めまして! シ、シイナと申します。よろしくお願いいたします!」

シイナは早口で言葉を繋げると深々と頭を下げた。
アネモネは少女のシイナを見つめ、少しだけホッとした表情を見せた。

「よろしく!」

アネモネはシイナの前に手を伸ばすと握手を求めた。シイナは握手を大人から求められた事に驚いた。しかも、女性の大人。

戸惑っていると、シイナの代わりに風の子・マロンがその手に近づき小さな手を伸ばして指を掴んで握手した。

「マ、マロン!」

シイナは慌ててマロンをたぐり寄せ、失礼では無かったかと不安顔でアネモネを見た。

「その子が風の子なのね! どうぞよろしく!」

アネモネは笑顔でシイナの腕にいるマロンと、ドミノの影に隠れていた風の子・シロイトを見つけ、その頭と体を撫でた。

「こ、この子達の事見えるんですか?」

「えぇ、可愛い顔してるわね」

アネモネは笑顔でシイナを見る。

「アネモネは風乗りの一族なんです。風が見えても不思議ではありませんよ。私たちより風には詳しいかもしれません」

シイナは笑顔のアネモネをお見つめ笑顔になった。

「おーい、アネモネー! どこだー!」

遠くから男性の声がアネモネの名前を呼んだ。

「ここだよー! 皆んな来るの遅いから先きて待ってたんだよ!」

アネモネは振り返って手を上げると、大きく振って見せた。

「今日は何かあるんですか?」

「ん? 扉の入り口を移動させるんだって」

そう言ってアネモネはシイナが怪力で閉じた扉を指さした。

ドミノとシイナはその扉を見つめ驚いた。奴らの腕が伸びていたあの扉は、見たこともない大きな「かんぬき鍵が」施錠されておりその上から幾度となく板を打ち付け決して開かない様になっていた。

「あの扉を移動するんだって。その為、運び屋私達全員が呼ばれたって訳」

大柄のファミリーでさえ見上げるほど大きな扉の前には、ファミリーのトップ・火影が厳しい表情で仁王立ちしていた。

つづく

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