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100話 向人・シゲル

ドミノとシイナは、向人(むこうびと)の屋敷へと招き入れられた。そこで出会った執事の「ヤマダ」は屋敷にどれほど仕えているのか。その曲がった腰と、シワに埋もれた目はこの屋敷の全てを知っている様であった。

※ ※ ※

「こちらです」

そう言って、大きな玄関へとやってきたドミノは少し高台になっている床の上で、見知った顔を見つけた。

「あなたは……」

「ようこそいらっしゃいました。靴を脱いでこちらへ」

ドミノより少し年上に見える彼は、「去人・ミナコ」を……そしてシロイトを内に秘めていた「向人・ユキ」を『向こう側へ送り届ける』と言っていた「シゲル」という人物だった。

「ジョウ、後は私が」

「畏まりました」

ジョウは、曲がった腰をさらに曲げドミノ達の側から離れていった。

「お上がり下さい」

ドミノとシイナは、玄関にズラリと並べられた靴を見つめそれに習って靴を脱ぎ隅っこへと並べた。とても大きな靴から見て、客人達は誰かだいたい察しがついた。

「す、すごく立派なお屋敷ですね」

シイナは玄関から続く広い空間を目を輝かせて見上げていた。

「ありがとうございます。でも、古いでしょう。そこかしこ、ガタがきてまして管理するだけで大変ですよ」

着物姿のシゲルは、以前見たより落ち着いて見えた。その顔には眼鏡をしており、眼鏡奥の細い目が笑っている。

「あの……」

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はタナカ・シゲルと申します。シゲルとお呼び下さい」

丁寧に下げた頭につられて、ドミノとシイナも頭を下げた。

シゲルは広間を横切り、長い廊下を歩き始めた。廊下を進むにつれ、シゲルの足音のない歩き方にドミノとシイナは驚いた。

「シ、シゲルさんも向人の方なんですか?」

シイナは離れて行こうとするマロンの尻尾を掴んで、引き留めながら聞いた。

「いえ。実は、私は向こうの世界を知りません。しかし、先祖が向人だと聞いております。今でも迷いこまれる方々を保護し、私達の夢を通して向こう側へと返す役目を引き継いで来ました」

「む、向こう側へ返す?」

シイナは言葉の意味をドミノに求める様に顔を向けた。
ドミノは、歩みをとめ首を傾げた。夢は自分の夢を通ってしか戻ることができないと聞いている。自分の夢を見失えば探すのも困難に。それを、どの様にしてこの向人は「戻す」と言のだろうか。

シゲルは、もう少し詳しく説明しますね、紺色の着物の裾に腕を入れて再び歩き始めた。

歩みを進める廊下は、8の巣の廊下に負けないほどとても長く続いていた。

つづく

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