99話 訪問
ドミノとシイナは、向人(むこうびと)の屋敷前で立ち尽くしていた。大きな門構えには重厚感のあるドアノックが付いており、鳴らされる時を待っている。ドミノは扉の脇に付けられた表札を見つめ家主を想像した。
※ ※ ※
表札は年季が入っており、そこにある文字も薄れて読みづらくなっていた。もう少し近づいてみるとそこには「田中」という文字が薄く浮かび上がっていた。
「な、何か四角がいっぱいの形ですね」
「おそらく、この家の主人の名前だと思います。読み方は分かりませんが……向人の国の文字かと」
ドミノは、扉に近づき古く大きなドアノックに手を伸ばそうとした。その、瞬間向こうから勝手に扉が開いた。驚くドミノは、扉の隙間から顔を覗かせた老人男性と目が合い頭を下げた。
「お待ちしておりました」
隙間をもう少し広く開け、ドミノとシイナは着物姿の老人男性に屋敷の中へと招かれた。
腰の曲がったその老人に案内され、ドミノとシイナは広い庭を歩き始めた。
「私、この屋敷の執事をしておりますヤマダ・ジョウと申します」
「ヤ、ヤマダジ……ジョウ? 長い名前ですね」
シイナの言葉にヤマダは立ち止まり、曲がった腰を伸ばしてシイナの顔を見つめた。
「いえ、ヤマダは家族名でございます。ヤマダ、またはジョウとお呼び下さい」
そういうと、再び腰を曲げ広い庭の先を急ぐ。
「では、あの扉の文字はヤマダと読むんですか?」
ドミノは先程見た「田中」の記号の読みを聞いた。
すると、ヤマダは小な体を震わせながら違うよ、と笑い出した。その姿がどこか守護柱・リスのラルーを思わせる。彼も随分歳を取っているのがよく分かった。
「表札の文字はタナカ、と読みます。ここのご主人様の家族名ですな」
「か、家族名って? みんな同じヤマダじゃないの?」
「血筋、とでも言いましょうか。家族が同じ名前を名乗る名前の事です。ご主人様の親、子供、親族、兄弟皆同じタナカが名前に付くんです。私達の世界ではそれが一般的だったとかで」
「私たちの世界? では、ヤマダさんも向こうからやって来たのですか?」
ドミノの問いにヤマダは足を止めた。くるりと振り返ると、その顔は少しニヤッと笑っている様にもみえ少し不気味に見えた。
「さぁ、どうでしょう」
クククと笑うとヤマダは再び歩き出し前方を指差した。
「見えてきました。あちらが玄関でございます。皆さまお待ちかねですよ」
「皆様?」
ドミノはその言葉の意味がわからなかった。ラルーだけが待っているのでは無さそうだと、胸の小さな胸騒ぎを感じながらその先を急いだ。
つづく
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