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104話 シゲルの思い

向人(むこうびと)は、夢の扉を2つ持つ。こちらに続く扉とあちら側へ続く扉。夢に迷い込んだ人たちの架け橋になって夢を通って戻す役目を担っている。その夢には、かつて盗まれた夢の入り口と出口を示す双子星が輝くかつての夢の姿だった。

※ ※ ※

ドミノは早い鼓動を何とか落ち着かせ考えを巡らせた。

墓には何が眠っているのか。墓守はどうしてこうもして、孤独と引き換えに歌を歌い続けなければならないのか。その疑問はシゲルの抱く疑問と重なる様に思えた。

「私も向こう側へと行ってみたいですよ」

シゲルがぼそりと呟いた言葉が聞こえた。

「向こう側へ続く扉があるのに、自分では決して通れない。まるでこの世界に閉じ込められている様だ」

ドミノは全身に鳥肌が立った。

向人は世界の歪みを知らない場所へ戻れる。

しかし、その扉さえ知らない自分たちはシゲルの言った通り、まるで外に出ることの許されない閉じ込められた世界で生きている……そう感じてしまった。それは、魂が体の器から外に出る事が許されない様な、そんな感じに似ている。

そう思うと、双子星が盗まれた話も理由が見つかる。向こう側へと繋がる扉の目印を盗み出したのは、私達をこの世界に閉じ込めるため。信じたくはないが、そう考えると合点がついた。

「向こう側の人はどう思うのでしょうね。私達の事を。変な夢を見た、と思うだけなのでしょうか。でしてら、私もそちら側になりたい」

シゲルの言葉に寂しさが重なった。

「私は向こうの世界を知りません。同じ向人として扱われているのに戻る場所は貴方達と同じこの世界。しかし、この世界で皆と同じ様に生きる事を許されず、この隔離された世界の隅っこでこうして生活をしております」

シゲルは振り返った。精いっぱいの笑顔は引きつっていた。

「私も、貴方達や迷われる方達と同じ様に様々な夢を見たい……そう思うのは贅沢なのでしょうか」

廊下から見える空をシゲルは見上げた。
瞬く1番星は今日も変わらずそこのある。

大人達の話を大人しく聞いていたシイナとマロンの鼻先に、美味しそうな匂いが通り過ぎた。

「あ、こ、こら! マロン!」

シイナのスキを見て逃げ出したマロンは匂いの方へときた道を戻っていく。待ってってば!と追いかけるシイナもまた、鼻先を先頭にその匂いの元を探しに行ってしまった。

ドミノは呼吸を整え、シゲルの隣に立った。ドミノも一番星を見上げ、一つ力強い呼吸を吐いた。

「見ましょう。私達と。同じ夢を」

その言葉に迷いはなかった。
シゲルは、ドミノの優しい表情の中にある力強い眼差しから視線を外すことが出来なかった。

つづく

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