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75話 シイナの涙

風の子と契約を結んだコントラのドミノ。彼は白い風の子・シロイトと「聴覚」の夢のカケラを。同じくコントラのシイナは、茶色い風の子・マロンと「味覚」の夢のカケラを集める役目を命じられた。

※  ※  ※

ドミノとシイナは、夢の壊人(ファミリー)の図らいにより8の巣内に住居を用意され、守護柱・リスのラルーの指導の元、コントラとしての知識を得ていった。

古い文献は全て、同じ建物(8の巣)の書庫に保管されておりその膨大な情報の中「夢への入り方」「夢の見分け方」「夢での注意事項」など必要な事柄を抜粋して学んだ。

コントらとしての英才教育が始まったのだ。

シイナは文字の読み書きは出来るが、難しい言葉や計算は苦手だった。混乱するとすぐにドミノへ質問をし、ドミノは優しく彼女の理解できる範囲で説明していった。

「ド、ドミノさんって先生に向いてますね」

シイナのそんな言葉にドミノは少し嬉しくなった。褒められたからではない。誰かと同じ時間を共有できている事に、これまで感じた事のない満ち足りた思いを感じたからである。

ドミノはドムのおかげだと感じていた。シイナはドムと同じように好奇心旺盛で、何にでも興味を持つ性格だった。その思考や行動パターンがどこかドムに似ていたのだ。

シイナも初めこそは見ず知らずの大人のドミノを警戒していたが、何かと気にかけてくれる優しさに心を開いていった。

ドミノとシイナはいい関係を築きつつあった。守護柱・リスのラルーもそんな2人を温かな目で見守った。100年ぶりのコントラは風付きも良く、生まれた風の子も申し分なく元気そのものだった。遠い昔の、あの賑やかな時代に想いを馳せて、これからのこの世界での安定を願った。

「ところで、シイナは今いくつかの?」

ラルーの問いかけにシイナは走らせていたペンを止めた。シイナは自分の誕生日にいい思い出が無かったのだ。

「せ、先日、17になりました……」

シイナの表情が曇った事にドミノは気がついた。

「先日ですか? それはお祝いをしなくてはいけませんね」

シイナは顔を上げて優しいドミノの顔を見た。そんな事を言われた事など無かったからだ。シイナの目に見る見るうちに涙が溜まり、シイナの手元で丸まっていた風の子・マロンの頭上に雨を降らせた。

シイナの反応に驚いたドミノとラルーは顔を見合わせ困惑した。シイナは流れてくる涙と鼻水を拭うと、急にお腹を抑えて黙り込んだ。しばらくすると、あの怪物の様な唸り声が部屋中に響き渡った。

「も、もうヤダ……」

シイナは恥ずかしさと悲しさと、情けなさで机に突っ伏しマロンを抱え込む様にしてさらに泣き始めた。ドミノの首に巻きついていた風の子・シロイトもシイナを心配して側まで寄っていった。

ドミノ、ラルーそして2匹の風の子は、涙が止まらないシイナの背中や頭を優しく撫でた。
シイナは、その優しさに顔を上げて声を振り絞り呟いた。

「み、みんな、優しいですね……」

シイナは次々溢れ止まらない涙は、優しさに触れたからだと気がついた。それは初めて友達と呼べる「セシル」に出会った時と似ていた。シイナは泣きながら、あの生意気で口の悪いお嬢様、セシルの事を恋しく思た。

つづく

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