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36話 緑の子

夢を解体するのは骨が折れる。
そう言ったのは、第2の王レイのカル(後継者)「夢の壊人」の火影だった。
夢の壊人は、ファミリー一族でその役目を務めていた。

夢を解体する時、夢内に溜まっていた風が外へと吹き出す。
そして、火花を散らしながらバラバラになって消えてしまうのだ。

それは、まるで夜空に花火を打ち上げた様な派手さと、その後に残る儚さとがあった。

その解体の時に飛び散る火花を「星の粉」とファミリー達は呼んでいた。
星の粉は、風に巻かれ解体されていく夢に新しい命を誕生させる。

動物や植物の形を持ち知性を手に入れた者を「緑の子」、光が形となった子を「星の子」と呼び、解体される夢から救出する保護対象にもなっていた。

火影は今まさに生まれた星の子を元墓守のドミノに託した。

「兄さん、ミィクって?」

現墓守のドムはドミノの手のひらで面倒くさそうに腰を下ろした『ソレ』を見つめた。

「ミィクは光の子と聞いています。夢の解体時の火花で生まれる星の子とは知りませんでした」
「光の子?」
「まぁ、夢を解体すると色々あるんだ。じゃぁ、また暇があったらいつでも来てくれ。歓迎するぞ」

火影はそう言って、笑いながら去っていった。

夢の解体方法は、墓守の記憶の中に新しく記される事だろう。


ドミノは活気のあるストアの露店の間を、そう考えながら歩いていた。
両手の上には火影から託された星の子を抱えて、道を進む。
ドムは再び露店の鮮やかさに心を奪われている様子だった。

「道を覚えて下さい。次は自分で買いに来るんです」

ドミノは少し強めの口調でドムに告げた。
星の子がドミノの顔を見上げ、ドムを見る。

「でも、兄さん! ここ、ほんと夢に出そうなぐらい楽しいんだもん」
「では、夢の中でも道に迷わないように覚えて下さいね」
「分かった!」

星の子がドミノの手のひらの上で立ち上がり周りを見渡した。

「どうかしましたか?」

星の子は右、左、とその短い指をさしながら何かを確認している。

「もしかして、ドムの代わりに道を?」

星の子はコクリとうなづくと、ビシッと前を指差す。

「お願いしますね」

ドミノは小さく笑い、この入り組んだストアの道を進んでいった。

途中、ドムは3回迷子になった。
その度にドミノとミィクはため息を付き、来た道を戻っては再び歩き出すはめになった。

「さぁ、着きましたよ」

そう言ってたどり着いたのは、路地を少し中に入った場所だった。
「インク屋」の看板が揺れ、入り口には蔦が生い茂っている。

ドムは扉にある錆びたドアノックを優しく叩き、応答を待った。
ドムはまるで廃墟の様な店構えに不安になった。

しばらくすると、扉はゆっくりと開き店主が顔を出した。

「こりゃ、ドミノか。いらっしゃい」

しゃがれた声の主の顔は、ワニだった。


ワ二の頭は植物の葉で覆われていた。
この不思議な生き物は、インク屋の主人『緑の子』のジジアその人だった。

つづく

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