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98話 向人の屋敷前

運び屋・アネモネと空を移動中、黒の国からの狼煙を見つけたドミノ達。その意味を知っているシイナにアネモネは興味を示した。困惑するシイナとドミノ。そうこうしているうちに、目的地である「向人(むこうびと)の館」へと到着した。

※ ※ ※

アネモネは、ドミノとシイナとの別れを惜しむより、情報を聞き出せなかった事の方が心残りだった様だった。
すぐに8の巣へ戻り兄弟達と合流する約速さえしなければ……と笑ってはいたが、その本心は「黒い影」を怖がる兄弟達を心配している。優しい姉はすぐに絨毯に戻り、それじゃまた、と風に乗って去っていった。

「び、びっくりした……」

シイナは、絨毯から落とされそうになった時の恐怖を思い返していた。同時に、手に残った痛みを忘れる様にピラピラ振りながらドミノをみた。

「悪い人ではないですよ。きっと、いい味方になります。私が保証します」

ドミノの笑顔に、シイナは胸がざわついた。信用していいのか分からない。何故、味方とう言葉を使ったのかシイナはその意図を掴めずにいた。

「ここが向人の館……なんですね」

見上げたその門構えは、とても厳重でそこから左右に伸びる壁はこの空間を隔離している様に感じた。

風の子・シロイトもドミノの緊張を感じ取り大人しく腕に戻り巻きついた。

「マ、マロンも戻って……って! マロン!」

シイナはマロンが既に壁を乗り越えようとしている姿を見つけて慌てて駆け寄った。
尾を掴んで引き戻そうとする。しかし、マロンは鼻をスンスン鳴らし、何かの匂いを感知している様だった。

「ダ、ダメって言ってるでしょ!」

力任せに引っ張ったマロンの体は、まるでゴムを弾いたかの様にシイナの胸元めがけて戻ってきた。驚くシイナだったが、とっさに両脚を踏ん張りその衝撃を胸の中心で受け止めた。

その時、一瞬シイナの周りに巻きつく風がドミノの目には見えた気がした。

__バシンっ!

聞いた事の無い大きな音に驚いたドミノは、シイナが倒れ込むのでは無いかと慌てて駆け寄った。
しかし、当の本人はケロリとしか顔で振向いた。

「す、すみません。ほら、マロンも」

丸く縮まったマロンを両手で持つと、タラリと体が伸びる。シイナは、マロンの頭を下げながら同時に自分の頭を下げて誤った。

「いえ……大丈夫ですか?」

シイナは問いかけの意味がわからず、ドミノの顔を見つめると首を傾げた。

「いえ、では改めて。参りましょう」

「は、はい!」

ドミノはシイナに秘められた力を改めて目の当たりにした。

力持ちという次元ではなく、シイナにはその重力を自在に変えれる何か秘訣を持っているのかもしれない……。

風を巻き取っているのだろうか……マロンを受け止めた衝撃でくっきりと残ったシイナの足跡を見つめ、ドミノは色々思考を重ねる。

門へ近づいていくシイナの後ろ姿を見つめ、ドミノはその考えを小さく呟いた。しかし、その声は屋敷近くを駆け抜けた風に巻かれ消えてしまった。

つづく

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