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13話 山の生活と墓の前

神の目の代わりとなる守り神の1匹、ロットから連絡が来てから2日たった。

明日はいよいよ会議が開かれる場所に行かなくてはならない。
ドムも小屋に来てから毎日が刺激的で休む暇が無かった。

お腹を下した時、熱が出た時、肌がかぶれた時……などなど、山に生えた野草は全て薬だと教えてもらった時は、ここは薬箱の中に立つ小屋だとドムは思った。

ドミノの後に着いて、改めて墓への道筋も覚えた。夜空の星の道筋を頼りにしても行けるとも教わった。

ドミノと一緒に岩場に登り、墓に続く洞窟の前にも立ってみたりもした。しかし、墓から吹く風はドムの事を歓迎はしなかった。

ギギギと、獣の奥歯が鳴る様な音がドムの周りに集まってくる。

「な、何? この音」

ドムは不気味な響きに身を構えた。
隣にいるドミノは顎に手を添え、ゆっくりとしゃがみこんだ。

「兄さん? 何してるの?」
「この音が聞こえたら……」

そう言った瞬間、墓へと続く墓から突風が吹きだした。
爆風がドムの体に巻きついて、岩の向こう側へと押し退けていく。ドムは簡単に岩から跳ね飛ばされた。

体を低く構えていたドミノは慌てる様子もなく、風が落ちつくのを待った。
風が止むのを確認すると、ゆっくり立ち上がり倒れたドムの体を起こしに来た。

「伏せて下さい、と言おうと思ったのですが……間に合いませんでしたね」

ドミノの手に引かれ立ち上がるドムは、再び風の流れが変わった事に驚いた。
今度は穴に向かって枯葉が吸い込まれていく……そして押し戻される。

「この穴が息してる……」

ドムは恐る恐る洞窟の穴へと近づいた。
ぽっかりと開く穴の奥は闇が深くよく見えない。

「あ、そんなに近付くと……」

ギギギという、聞き覚えのある音が再び穴の奥から聞こえてくる。

「伏せて下さい!」

ドミノの言葉より早く、風は爆風となりドムの体を吹き飛ばした。

「まるでクシャミみたい」

ドミノは土だらけのドムに近付き起こすと、優しくてその背中の汚れを叩き払った。
今朝降った通り雨で大地は緩み、ドムの体はドロドロだった。

「ここが私たちが代々守って来た物です。これから少しずつ色んな歴史や守り事を覚えていくといいです。焦らなくていいですよ。墓守には時間がたっぷりありますから」

ドムは泥だらけになった足元から靴を脱ぎ、裸足でドミノの後を追った。

「この先に湧き水の小川が流れています。乾季で井戸の水が干上がったらここにくるといい」

ドミノは茂みを進み水音のする小川へとドムを案内した。

思ったより幅のある小川の表面は陽の光に反射し、ドミノたちの登場に驚いた動物たちが茂みや水中へと姿を隠した。

「小川の上流に、万能の薬草が生えています」
「万能って、兄さんが時々山から持って来てくれるあの赤い実のついた薬草ですか?」
「そうです。名前は私も解りませんので、勝手に万全草(ばんぜんそう)と呼んでますが」
「ばんぜん?」
「何にでも効く万全な薬だから、万全草。小屋の周りの薬草と違って摘んでも枯れることのない不思議な草です。小屋に昨年摘んだ物がありますのでしばらくは大丈夫ですよ」
「枯れないの? 変なの」
「変、ですか?」
「だって、草も木も、土から離れると死んじゃうから……水や手を加えたりして長持ちはさせれるけどいつかは枯れて無くなっちゃう。それが普通でしょ?」
「普通……そうですね。でも、ここは神の時代からの場所。普通が普通じゃない事の方が多いのかもしれません」

ドミノは問いかけてくるドムの疑問に全て答えはしなかった。
いずれここで生活していれば知る事になる、自分の目で見て経験した方が彼のためになる。
そう思うのは親心と同じだった。

「兄さん! 見て! 大きな葉っぱが泳いでる!」

そう言ってドミノの指差した水面には緑の大きな葉っぱ、それには凶暴な目が光っており訪れたドムとドミノを睨みつけていた。

つづく

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