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40話 不機嫌なミィク

カンター上に置かれた夕日色のペンは、ドムが墓守として初めて手にするペンである。

「インク屋」の主人、緑の子・ジジアからドムはペンを受け取った。

「ありがとうございます」

ドミノは料金を支払おうと金貨を3枚カウンターに並べた。
すると、ジジアは鋭い歯を見せるほど口角を上げてそのお金を押し戻した。

「今回はペンもインクも紙もサービスだ」
「それじゃ、このお店潰れちゃうよ?」

ドムが心配そうにジジアを見る。

ジジアはカウンターのミィク達を集めて、そのかわり……と言葉を続けた。

「あの子を連れて行ってやっておくれ」

そう言って、不機嫌そうに踏ん反り返っている不機嫌顔のミィクを爪先で示した。

「あの子は、自分の居場所がここではないと分かってるみたいだよ。何より、あの顔じゃ客が逃げちまう」

ジジアはほかのミィク達にご褒美のアラレをあげながら話を続けた。
しかし、不機嫌顔のミィクはジジアの配るアラレには興味がなさそうだった。

「ミィク達は仕事を手伝ってくれる。どうだ? 墓守の小屋で手伝いさせるのは」
「そんな話、聞いたことありません」

ドミノは腰を下ろし、不機嫌顔のミィクの視線に合わせた。

確かに、手伝いのミィクがいればドムはあの小屋で寂しくはないだろう。
きっと話し相手にも遊び相手にも、喧嘩の相手にもなる。

「あなたはどうしますか  一緒に来ますか?」

ドミノはミィクの顔を見た。
相変わらず不機嫌な顔をしている。

不機嫌顔のミィクはゆっくり立ち上がりドミノの顔の前に近づいてきた。

ドミノは笑顔でミィク前に手を置いた。
ドミノの手によじ登るミィクは、ドミノを見上げ頭を少し下げた。
どうやら、よろしくという事らしい。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

ドミノも丁寧に頭を下げるとドムが嬉しそうに手の中を覗き込んできた。

「一緒に行くの?」

ドムがミィクをつつくと、ミィクは面倒くさそうにドムの手を払った。

「何か、僕嫌われてるっぽいけど」
「そんな事ありませんよ。少しずつ仲良くなって行って下さい」

そう言ってドミノはドムに不機嫌顔のミィクを手渡した。
ミィクはドムの顔をじっと見て、ため息をついた。

「僕、仲良くなれる自信がないな……」

ドムは困った顔でドミノを見た。

「ドムのこと、よろしくお願いしますね」

不機嫌顔のミィクはドミノを見て、小さくうなづいた。

「ねぇ、何で兄さんの言うことは聞くの?」
「ドムを心配している気持ちが同じだから、じゃないでしょうか」

その言葉にジジアもほかのミィク達も小さく笑った。

インク屋を出ると、空は雲が並び今にも天気が崩れそうだった。

「急ぎましょう。待ち合わせの場所はブースの前です。ドム、道を覚えていますか?」
「え?」
「道を覚えて下さいって言ったでしょう? 大丈夫って答えたじゃないですか。それじゃ、次一人で来た時どうするつもりだったのですか?」

ドミノの言葉にドムは何も答えられなかった。

再び不穏な空気がドミノとドムの間に流れた。

ドミノ達の様子を見ていた不機嫌顔のミィクが聞こえるほどの大きなため息をついた。

「ミィちゃんまで呆れないでよ」
「ミィちゃん? 」
「そう。名前無いと呼びずらいかなって。ミィクのミィちゃん」

ミィと名付けられたミィクは、ドムの手の上で立ち上がるとピッ!と前方を指差した。

「ミィちゃん覚えてるの?」

ドムは不機嫌顔のミィに従って歩き始めた。
ピッ!ピッ!と道を指差すミィに案内され、ドムとドミノは目的地へと無事たどり着いた。

「さすがミィちゃん! 頼りになる!」
「頼ってどうするんですか。これからもっと覚えて行かなくちゃいけない事があるんですよ?」

ドムの笑顔に、ドミノとミィのため息が重なった。

「あ! 来た来た! お〜い」

待ち合わせ場所の階段下で、アネモネが手を振っている姿が遠くに見えた。

つづく

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