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85話 夢の集まる場所

夢の集まる場所・8の巣の中心フロアにやってきたコントラのドミノとシイナ。目の前のガラス張りの向こうには、ファミリーが夢を解体する時に発生する光が、まるで夜空に輝く星の様に瞬いていた。閉じ込められた宇宙に風の子達も興味深々だった。

※ ※ ※

「す、すごく綺麗」

シイナの言葉にドミノは笑顔になった。ドムと同じ反応を見せるシイナの隣に立ち、夢の解体時に発生した光が星のように見えるんですよ、などと火影から聞いた知識をシイナに教えていた。

「ゆ、夢ってこんなに暗いところにあるんですね。よく見つけられますね」

シイナは真っ暗な闇の中に光る火花を見つめ首を傾げた。確かに。今は星のように瞬くあの空間に、もし光を取り上げたら残されるのは闇だけだろう。ファミリーはどうやって闇の中から夢の扉(入口)を見つけているのだろうか。

「こ、この建物ってどうなってるんですか? 外はまだ明るいはずなのに……この窓の向こうは夜って感じがするし……部屋の明かりも関係ないみたい。不思議な所」

シイナはまるで水族館のガラスにへばりつくようにして、その闇が広がる宇宙を見上げた。

シイナはかつて、ワガママなお嬢様「セシル」と一緒に國の水族館へ出掛けたことがあった。

大きなガラスに閉じ込められた魚達がキラキラと光り綺麗ですね、とセシルに言ったが彼女の考えは違っていた。この子達は自由が無いわ、と。本来いるべき場所ではない所で泳ぎ回るその姿は、セシルにとっては不憫にしか感じなかったみたいだ。

ドミノはガラスに反射して見えるシイナの顔が少し悲しそうに見えた。ドミノの首に巻きついていたシロイトがドミノから離れ、シイナにそっと優しく寄り添った。

「ん? あ、ありがとう」

シイナはシロイトの優しさにお礼をいい、夢の集まるその宇宙空間を見つめ小さくため息をついた。

「お待たせ、お待たせ」

火影は手に何か書類を持ち、大股でやってきた。

「どうだ? こないだより増えたとは思わんか?」

火影はガラスの向こうを指差し、ドミノを見て言った。その顔は疲れ切っている。

「確かにそうですね。こんなに空夢(からゆめ)が見つかったという事ですか?」

「いや。範囲を広げたんだ。誰もいない空箱の夢だけじゃなく、夢主のいない夢全部をな」

「え? それでは、夢主以外の人達……夢人達がまだ中で生活している夢も?」

「あぁ、あいつらに情けはいらねぇよ。それより、その夢人がやっかいな事になってな」

「やっかいな事とは?」

「ふむ」

火影の肩に立っていた守護柱・リスのラルーが腕を組んで首を傾げた。

「その夢人達が最近、よからぬ風になりつつあるようなのじゃ」

「よ、よからぬ風?」

「夢人は、特に意志がある訳じゃねぇんだ。夢の核は夢主だ。つまり夢に登場する脇役だった夢人。だが」

だが、と火影は強くいいガラス張りの宇宙を見上げた。

「夢人が夢から出ちまった案件があってな。どうやら、奴らの開けた穴から外へどんどん溢れ出てきてるって訳だ。そして、再び自分が住めそうな夢を探して彷徨いだす。それがいつしか奴らと同じ行動をする様になっちまってんだよ」

「つまりじゃ。外に出た夢人が面(つら)と同じ悪夢を生む存在へと姿を変えつつあるって訳じゃ」

「な、何それ。怖い……」

シイナが思わずつぶやいた。

「だろ? だから、夢主不在の夢全部が対象になっちまった訳だ。仕事が増えて参ったぜ、まったく」

火影は大きなため息を付いてガラス向こうの宇宙から目を背けた。

「あ、あの」

シイナが恐々火影に声をかける。

「なんだい? お嬢」

「お、お嬢?」

「コントラのお嬢もファミリーの仕事に興味あるかい?」

「あ、い、いえ。一つ質問いいですか?」

「おっ。何だ何だ?」

「何であそこは真っ暗なんですか?」

火影は質問したシイナを見つめてニヤリと笑い腕を組んだ。

「何でって、そりゃ。お嬢は眠る時目を瞑るだろ? 瞑ったらどうなる?」

そう言われてドミノとシイナは、はっ!として気がついた。

眠る時は必ず目を閉じ闇の中へ沈む。夢はその暗闇の先にある……と言う事に。

つづく

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