80話 双子星
誰の夢にも「入り口と出口」となる扉がある。それを示す双子星が昔は同じ場所に輝き人々の夢を見守っていた。しかし、時は流れ夢の中には1つの星しか輝やいていない。もう片割れは今ドミノ達が見つめる満天の星空の中ある。それがそうだ、と守護柱・リスのラルーが呟いた。
※ ※ ※
話せば長くなる、とラルーは頭を抱えた。ドミノとシイナは顔を見合わせて、これは聞いてもいい事柄なのかと眉を潜めた。
「双子星は夢の『種』とも言われておった。神が人々の夢に持たせた希望の種。しかし、それを盗んだ者がおったという訳じゃ」
「そ、そんな事、誰がしたの? 悪い人」
怒った顔のシイナをマネして風の子・マロンが頬を膨らます。
「そやつの体には罰として星形の刻印が印されて、神から星の代わりをする事を言い渡されたんじゃ」
ドミノはふと、記憶の隅にある光景を思い出した。それは8人会議の事。そこに星の印を持つ者がいた。
「もしかして、それは人ではないのでは?」
「話が早いのぅ」
ドミノとラルーは目を合わせて小さく頷いた。
「え? な、何々? 2人だけで納得しないで」
シイナはマロンと同じ顔をしてドミノとラルーに対して腕を組んだ。
「私の知っている者の中に、印を持つ者がいるんです。星型の……」
「し、知り合いですか?」
「いえ、第7の守護柱・サソリのスーがその盗んだ者なのではないですか?」
「え、え? 神の目の代わりとなる柱様が? そんな事あるの?」
シイナは驚いて身を乗り出した。自分が過ごした第11國・イユ。そこは黒の王・シーカが暮らしている。黒の王と常に行動を共にしている守護柱がそんな事をするなど信じられなかった。
「ずいぶん昔の話じゃ。スーの奴も今はちゃんと星の代わりを務めておる。罪は償われた。ワシらも許していかねばならん。同じ過ちを犯さない様、黒の王もその役目を引き継いでおる」
「黒の王の役目とは……」
ドミノの問いかけに、大きな欠伸声が重なった。気がつくと2匹の風の子は机上に丸まり寝息を立てている。
「さぁ、もう夜も更けた。ドミノ達もゆっくり休んで。明日から忙しくなるぞ」
「は〜い」
シイナは大きく背伸びをすると部屋の隅に置かれ簡易のソファーに横になった。
ファミリーが用意してくれた部屋には、隣に2部屋がありそれぞれのベッドが用意されていた。
しかし、シイナはいつもソファーが寝床だったと言いベッドには近づかなかった。
ドミノも、普段は硬い木底の寝具だった為ベッドの寝心地に慣れず、勉強しながら机側の床で寝る事がほとんどだった。
「ド、ドミノさんは寝ないの?」
「私はもう少しまとめてからにします。先に休んで下さい」
ドミノはそう言って手帳を見せると手元の灯りだけを残して部屋を暗くした。
「ま、真面目ですね……」
シイナは3つ呼吸をする前に眠りに落ちてしまった。
ドミノはその寝つきの良さに弟・ドムを思い出した。ここ数日、覚える事や考えることが多すぎて、ドムを思い出す隙間さえなかった。心の隙間を埋め尽くしていたドムの存在が今や薄まっている事にドミノ自身驚いた。
風の子・マロンがフヨフヨとやってきてシイナの枕元で丸まった。
「マロンもお休み、いい夢を」
ppp……
初めて風の子の声を聞いた。それが返事だと分かるとドミノは笑顔でシイナに毛布をかけ直し机へと戻った。ラルーはドミノの手帳の前で腰を下ろしドミノのまとめた文字を読んでいる。
「どうじゃ。やっていけそうかの?」
「まだ、分かりません。でも、自分の知らない事を知る事は楽しいですよ。とっても」
「そうか。楽しいか……」
「聞いていいですか?」
ドミノの質問はその後も続いた。風の子・シロイトはドミノの膝の上でドミノの声を子守唄代わりに静かに寝息を立てていた。
闇夜に光る星達は、眠りから覚める朝が来て静かにその姿を次々に消していった。
かつて皆の夢に輝いていた双子星。盗まれ夢の外に連れ出された片割れ星は、皆が眠りから覚めるのを見守る様に1番最後に静かに消えた。
つづく
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