216話 夢歩き
「夢歩き」という夢遊病を患っていた冷酷非情の黒の女王・シャムは、ドムの持つ「万全草」で意識を取り戻した。女王はドムに「全て話せ」と言い放った。
※ ※ ※
睨みつける黒の女王の表情には、不安をが入り混じっていた。
それはドムの不安が感染したからなのかもしれない。
女王に睨まれたドムもまた同じ表情をしていたのだ。
「墓守の村ではこの病を『夢歩き』と言います」
「つまり、夢遊病という事であろう?」
黒の女王とドムの会話は、黒の王・シーカと主治医・サンディに見守られピンと張り詰めた空気の中でくりひろげられた。
黒の女王の鼻先がツンと上に向く。
ドムは、なるべく無礼がない様に言葉を探す。
「その、夢遊病……夢歩きに取り憑かれると持っていかれてしまう、と言われているんです」
「持っていかれる? 何をだ?」
女王の目が見開きドムを凝視する。
「それは…」
「遠慮はいらんと言っているだろう! 早く話せ! 全てだ!」
女王の言葉が強くなる。
ドムは、では…と意を決して話し始めた。
拳を握るては震えていた。
「遠い昔、墓守の村に人の夢を歩いて渡る事のできる者がおりました。僕たちの村ではその人の事をDona (ドナ)と言って今でもいい伝えられています」
黒の女王は眉一つ動かさすドムの話を聞いた。
「ドナは、人の夢に入る事が面白く勝手に入ってはいたずらをしてまるで自分のものの様に夢を扱っていたんです。ある時、ドナは人の夢から気に入った物を次々と盗み、自分の夢を大きく、さらに豪華に着飾る様になりました」
ドムは女王の瞳から目を逸す事なく話を続けた。
「ついに皆の夢がドナの物になってしまった事を村の長老は遺憾に思い、ドナを捕らえて着飾った夢を空っぽにしてしまったんです。さらに、人の夢に渡る事を禁止しました」
ドムが話を区切ると、部屋の中はシンと鎮まり返った。
黒の女王は続きを話せ、と鼻先をクイッと上げる。
「空っぽの夢になってしまったドナは、その悲しさから昼夜問わず自分の夢にあった物を探して彷徨い出すようになった。その目は虚でうわ言ばかりを話し、ついには自分の名前も分からなくなってしまったんです」
「愚かな奴だな」
黒の王はそう一言だけいい、ドムから視線を外した。
「しかし、この話には続きがあるんです」
ドムは握っていた拳をさらに強く握り、指先に広がった痛みで自分を保ちつつそう言った。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?