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82話 夢の味

ドミノとシイナは互いの夢を行き来して、夢の中での感覚に慣れていった。ドミノは夢の中で自分の姿を変える事ができる様になり、シイナより夢を理解する様になっていた。

※ ※ ※

「お、美味しかったなぁ、あのお菓子。隠し味に何か果物が入ってたみたいだけど……あれは……木苺と山葡萄。あと、オレンジの皮が少し刻んで入ってたのかな。あと、何でだろう……美味しかったのに、ちょっとだけ苦かった。何か胸の奥が……苦しいって言うか……」

シイナはドミノの夢の中で食べた、あの素朴な焼き菓子の味を思い返していた。

ドミノは驚いた。さすが「味覚のコントラ」と言われるだけあって、味に敏感である。しかし、それ以上分析されると、味の向こう側にある「思い」までも見透かされそうで怖かった。

「さすがですね。私も夢で食べた感覚まではあるのですが……味までは思い出せませんよ」

ドミノの言葉にシイナは嬉しくなった。自分に出来る事を1つ1つ見つけていくたびに、自信が付いていく感じがした。

「や、やっと成功して一安心です……」

シイナはドミノの顔をチラチラと見た。

「何か気になってる顔ですね。どうしましたか?」

ドミノはシイナの思いを汲み、優しい顔で向き合った。

「ド、ドミノさんの夢って音が無かったですよね? 何でですか……?」

シイナは10回目でやっと成功したドミノの夢の中の感覚が、あまりにも静かだった事が気になっていた。 シイナの言葉に、守護柱・リスのラルーは維持悪く笑いドミノを見た。

「ドミノよ。音を隠したんじゃな?」

ラルーの言葉にドミノは小さく笑い、シイナは首を傾げた。

「シイナは味覚のコントラなので、少し『味』に集中して夢を見てみたんです」

「わ、私の為に……?」

「その方がシイナが私の夢を見つけやすいかと思いまして。まさか、材料まで全部言いあてられるとは思いませんでしたけど」

笑顔のドミノを見つめ、シイナは自分の為に用意された夢だった事を知った。やはりドミノは一枚上手だ。
しかし、やはりそうなると味の中で感じたあの胸の奥が苦しくなる様な感覚…一体あれは何だったのだろうかと気になった。

「ドミノの焼き菓子か。懐かしいなぁ」

ラルーが顎髭を摩りながら目を細め呟いた。

「客人が来るのを楽しみにいつも作っていたんです。あ、ドムにそのレシピを教えるのを忘れてしまいましたね」

___ppp!

風の子・シロイトが遊んでくれと部屋中を飛び回りドミノを呼ぶ。

「今行きます」

ドミノは床に投げ捨てられていた丸まった紙を拾い、それをシロイトへ向かって優しく投げた。シロイトは楽しそうにその紙を風の尾でキャッチしドミノへ投げ返す。その遊びにマロンも嬉しそうに加わっていった。

シイナは楽しそうに遊ぶドミノ達を見つめ考え事をしていた。

「どうしたんじゃ」

ラルーはシイナの考え事に気がつき声をかけた。

「え? あ、あ。うん。ドミノの夢の中で食べたお菓子、美味しかったんだけど何か、こう胸の奥が……そう、ちょっと寂しくなっちゃったの。どうしてかなって」

ラルーは風の子達と楽しそうに遊ぶドミノを見つめ、優しく微笑んだ。

「客人の為のお菓子、と言っとったじゃろ? あれはな、あやつにとっては「嬉しさ」よりも、その後に来る「寂しさ」の方が大きかったのかもしれんのぅ。墓守の小屋を訪れる者は必ずそこから去って行くからな。シイナは味と一緒にドミノの思いも感じたんじゃな」

「お、思い……?」

「思い出の味。綺麗な色。いい香り。楽しそうな笑い声。人は夢の中で思いを見ておる。少なからずその思いが「味」や「音」となって表現されるんじゃ……。まぁ、そこまで感じ取れるとは。シイナよ、上出来じゃ」

笑顔のラルーに褒められたが、シイナは素直に喜べなかった。ドミノの隠しきれなかった思いに触れてしまい、再び胸の奥が苦しくなった。シイナの目の前に丸まった紙くずが転がってきた。

「シイナも一緒にどうですか?」

ドミノは変わらず優しい笑顔で笑っている。シイナは、1つ息を吐いて呼吸を整えるとその紙くずに手を伸ばした。

「よ、よし! 行くわよ!」

シイナはドミノの思いを胸の奥に仕舞い込んで笑顔で駆け寄っていった。

つづく

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