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217話 夢歩きのドナ

墓守のドムは村に伝わる夢歩き(夢遊病)について、冷酷非常の黒の女王・シャムに語って聞かせた。それは人の夢に入り勝手をしていた「ドナ」という人物についての話だった。


※ ※ ※

人の夢を渡り歩き、勝手に持ち出しては自分の夢に持ち込んでいたDona (ドナ)。
長老に罰せられ、ドナの夢は空っぽになってしまった。
それを悲しんだドナは、ついには自分の名前も分からなくなり……

「最後には消えてしまったんです」

ドムは黒の女王にそう告げると、再び彼女と視線が合った。

「消えた? 死んだ、という意味であろう?」

「いえ、消えてしまったんです。川底から山奥深く、井戸の底までくまなく探しましたが……どこにも見つかりませんでした。消えて居なくなってしまったんです」

ゴクリという生唾を飲む音が部屋に響いた。

「……それで終わりでは無いというのは、どういう意味だ」

黒の女王の顔色は変わらないが、その指先は血の気が引いて真っ白くなっていた。

「ドナは消えていなくなってしまったのですが…今度は出てくるようになってしまったんです。皆んなの夢の中に」

「夢の中?」

「はい。虚な目、うわ言ばかりの姿のまま人の夢の中をフラフラと」

「まだ渡り歩いているというのか? 面白い奴だな」

黒の女王はそう言って、鼻先でフンッと笑ってみせた。

「ドナの姿は現実で消えてしまっても、夢の中では変わらず存在し、そして人の夢を盗んで行ってしまう困った存在として言い伝えられてきました」

女王は、顔色を変え、不自然なほど王冠を気にして触り始めた。
ドムは女王の様子をを見て、疑惑が確信へと変わった。

「シャム様も会われたんですね。ドナに」

「……」

「夢の中で影を見たのですよね?」

「……」

女王はドムの言葉にピタリと動きを止め、フンッと鼻先で軽く息を吐き出した。

見かねた主治医・サンディが黒の女王に近づいて膝をついた。

「これまでシャム様の夢を色々診断させて頂きました。しかし、どの夢も日を追うごとに支離滅裂に…。まるで、ドナの様になられておりますよ」

黒の女王は小さく震えるその手を胸元に重ね、小さな声を漏らした。

「これが、取り憑かれる…という事なのか?」

その声はとても細く、これまで威勢を張っていた黒の女王の見せた初めての弱さだった。

つづく

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