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76話 ドミノの涙

コントラとして学習する日々を過ごすドミノとシイナ。先日誕生日だった事を告げたシイナは「お祝いしましょう」というドミノ達の言葉に涙してしまった。それは「優しさ」に触れた為の涙だった。

※ ※ ※

赤く目を晴らしたシイナにドミノは温かいお茶を出した。守護柱・リスのラルーは、8の巣に在籍する役人に声をかけ食事を用意してもらうよう声をかけた。

シイナは怪物と例えられる腹の虫を押さえ込み、何とか気持ちを落ち着かせようと頑張った。

「ご、ごめんなさい」

シイナの言葉にドミノは優しくお茶のお代わりを差し出した。

「ありがとうござます」

急にドミノが感謝の言葉を口にした。

「え、え?」

「こういう時は、ごめんんさい……ではなくありがとう。その方が笑顔になれるでしょう?」

ドミノの言葉にシイナは目を丸くした。

「お、お嬢様も言ってました。同じ言葉」

「セシルさんの事ですね。彼女はああ見えますが、とてもあなたの事を思ういいご友人ですね」

「そ、そうなんです!」

シイナは急に立ち上がって大声を出した。セシルを友人と言ってくれた事が嬉しくて堪らなかったのだ。

「お、お嬢様は私の大切な人なんです! 少し我がままな所はあるけど、でも私お嬢様の為なら何処へでも飛んでいけます!」

シイナのその真剣な表情に、ラルーは顎髭を撫でながら話し始めた。

「このコントラの試験も、自分ではなく君の為に必死になっておった。そうじゃろ? シイナ」

全てお見通しのラルーを前に、シイナはゆっくりと椅子に腰を戻した。ドミノもラルーの次の言葉を待った。

「お前たちは共通してる部分がある。それは何か分かるかの?」

ラルーの言葉にドミノもシイナも首を横に振った。

「居場所じゃ。これまで自分の居場所を探しておったじゃろ。自分が存在していい理由を。何者でもない『自分』という意味を。違うかね?」

ストレートな言葉にドミノは胸の奥が熱くなってくるのを感じた。
今まで井戸の上辺の水を汲み上げる様に、気持ちの表面だけしか見ていない部分があった。しかし、深くまで沈んだ桶は今まで感じた事のない大切なものを汲み上げてきた。ラルーの言葉は、気持ちの本心に触れられた様だった。

「い、居場所……」

「自分という意味……」

「そうじゃ。それは誰かに用意されるもんじゃない。自分で見つけるしかないんじゃ。自分がこれだ!…という物を掴んでいくんじゃ。この世はフワフワしておる。すぐ自分を見失いがちじゃ。じゃが、自分をしっかり持て。人の夢に自分を預けるな。お前さん達なら出来る。自分にしかできない事に誇りを持て。それがいつか、道になって行くじゃろうから」

ドミノの目から一筋の涙が流れた。
大人になってから涙を流すのは初めてだった。なるべく心が浮き沈みしないよう、日々努力してきたつもりだ。しかし、今その心が動き震えているのを感じていた。

……ここが私の居場所

__コンコンコン

ノックと同時に役人が顔を出し「食事をお持ちしました」と部屋に料理を持って入ってきた。シイナと風の子・マロンは嬉しそうに料理を迎えに立つ。

ドミノはそっと涙を拭い、気持ちを整えた。

「み、みて下さい! ケーキ!」

シイナの嬉しそうな声にドミノは立ち上がって振り返った。その顔はいつもと変わらない穏やかなドミノの顔だった。

つづく

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