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77話 奴ら

自分の「居場所」を再確認したコントラのドミノとシイナ。夢のカケラを集める為のいくつかのルールを8の巣に保管されている過去のコントラ達の書記から学んでいた。

※ ※ ※

8の巣の役人が運んできた食事を平らげ、最後のデザートにと残しておいたケーキをシイナと風の子・マロンが目を輝かせながら見つめていた。

「改めて、お誕生日おめでとうございます」

ドミノは取り分けたケーキをシイナとマロンの前に置いた。シイナはドミノの言葉に小さな声で、ありがとう……と呟いた。しかし、その表情は照れている、というよりは困惑しているように見えた。

ドミノはこの「誕生日」という言葉で気持ちが下がるシイナを不思議に感じたが、あえて声はかけなかった。シイナに興味がないという訳ではない。人には踏み込まれたくない事情をいくつか持っているものだと知っていたからである。

静かにケーキを食べるドミノ達の前に、守護柱・リスのラルーが話し始めた。

「夢の介入にはいくつかルールがある。それを守れなければコントラとしては失格じゃ。風の子との契約破棄という流れになるのを心得よ」

「そ、そんなに厳しいの?」

シイナはケーキを頬張った口でラルーを見つめる。シイナはこの短い時間にドミノとラルーに心を開いていた。言葉を発する時、少し戸惑いを感じさせる話し方は変わらなかったが、少しずつ砕けている感じは伝わった。

それは、人なつっこい茶色い風の子・マロンのおかげでもあった。マロンは自由にドミノやシロイトに絡み付いては楽しそうにしている。

風の子の性格はコントラにも通じる所があるようだ、とドミノは自然体になっていくシイナを見つめ笑顔になった。

「何事も秩序というもので成り立っておる。それを乱す者は奴らと同じじゃ」

ドミノの表情に緊張が走った。ラルーはきっと「面」の事を言っているのだろう。かつて人の悪夢を払う存在だった者たち。しかし、いつしか悪夢そのものを生み出す存在に変わってしまった健気な者たち。

「や、奴らって? 誰の事ですか?」

シイナはドミノとラルーの顔を交互に見つめ、その答えを待った。ドミノは机の上を見渡し、手頃な紙袋を手にするとシイナに体を向けた。

「人は眠りにつくと夢を見ますよね? 私も、そしてシイナも見た事が1度はあると思います」

ドミノは紙袋に空気を吹き込み膨らますとその口を掴み紙風船を作って見せた。シイナはドミノの話を真剣に聞き、マロンがシイナの皿からケーキを盗み食いした事にも気がつかなかった。

「この紙風船が夢だとします。かつての王達はこの夢の中で生まれる歪んだ風を逃す為、仮面を付けた相棒……その、名も「面(つら)」を連れて人の夢の中に入っていました。歪んだ風とは夢主の不安や恐れ、心が病んでいく風の事です」

「夢に入るって所までは、わ、私たちコントラと一緒ね」

「そうですね。面達は神から与えられた『ハサミ』を持っていました。歪んだ風を断ち切る為のハサミです」

「ハ、ハサミ……」

「しかし、王達は神を裏切り仕事を怠る様になってしまいました。面達は真面目に働き、その結果歪んだ風に随分と長い間当たってしまった事で、夢を傷つける存在へと姿を変えてしまったんです」

「な、何か……可哀想な話」

ラルーが立ち上がり、ドミノとシイナに背を向けてため息を1つついた。

「夢への介入で1番気をつけなければならん事は、奴らに遭遇せん事じゃ。奴らは初めこそは王と同じ人数じゃった。じゃが、今やそやつらが親となり次々生まれた子供達が誰の夢にも潜んでおる」

ドミノが手にしていた紙風船がゴソゴソと動き出し、そして急に膨れて破裂した。驚いたドミノとシイナは慌てて立ち上がり粉々になった紙袋を見つめた。
そこには風の子・シロイトが楽しそうに紙クズとたわむれて遊んでいた。どうやらドミノが手にして膨らませた紙袋の中にシロイトが入り込んでいたらしい。

ラルーはその様子を見つめて、言葉を続ける。

「奴らに捕まれば……それこそ夢の崩壊……悪夢じゃ」

ラルーの言葉にドミノとシイナは、固唾を飲み込み浅い息を同時に吐いた。

つづく

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