103話 夢の代償
向人(むこうびと)・シゲルは、昔かつて皆が見ていた同じ夢を見続けていた。その夢には迷い込んだ者たちを向こう側へ返す扉がある。しかし、茂はその扉へ近づくこともできない。繰り返す同じ夢から解放され、いつか様々な夢を見る事を望んでいたが、叶いそうにもないという現実を知り悲しんだ。
※ ※ ※
シゲルの表情は変わらず悲しみが浮かんでいた。
ドミノとシイナはそんなシゲルの思いが痛いほど理解できた。
「はじめてここに迷いこまれた先祖は、さぞかし夢の様に楽しかったでしょう。その子孫達が、今や世界の隅っこでこんな扱いを受けているなんて知る由もない」
シゲルは日の沈んだ空に浮かぶ1番星から視線を外して歩き始めた。
「私は……貴方達が私達の夢から『カケラ』を集め、墓に食わせているのを知っています」
「墓に食わせるとはまた、乱暴な言い方ですね」
シゲルの言葉の棘にドミノは苦笑いを見せながら、シイナと肩を並べてその後を追った。
「しかし、それが現実でしょう? こちら側の人の夢からは、カケラを取りすぎてしまった」
その通りである。こちら側の人間が見る夢が少なくなっている事は確かだった。
「どうして、風の子が生まれなくなったのかも考えれば分かりますよね」
「え?」
「本当に風の子は向人からしか生まれないのでしょうか? 疑問に思われませんか?」
「それは……」
ドミノは言葉に詰まってしまった。確かに風の子は向人から生まれる事に何も疑問を持たなかった。その事実は、これまでのコントラ達が残した文献にも記述が残っている。どうして、風の子を私達の中から探さなかったのか。神のため息から生まれたと言う「マム」は、どうして向こう側へ行ったまま戻ってこれなくなってしまったのか。
「カケラを採取されるもの達に代償が何もないとお思いですか?」
シゲルは立ち止まる事なく歩き続ける。
「私達一族に伝わる言葉があります。夢を盗まれた者は悪夢の一部になる、と」
「え?」
ドミノとシイナの言葉が重なった。
「貴方達は悪夢を育てている様なものだ。王の墓と言って守っておられるが、果たして本当にそうなのでしょうか? 王は……この夢の始まりの神とは、それほど偉大なのでしょうか」
「それは……」
シゲルは、ドミノが墓守として長い間疑問に思っていた点を的確に突いてきた。心臓の鼓動が早くなっていくのをドミノは薄暗い廊下の真ん中で感じていた。
つづく
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