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おいしいおんなのこたち

 陶器のような肌、ほっそりとした四肢、じゅわっと紅い頬。そしてけしていじめられることなく、男の子たちに守られる彼女らはきまって、食べ物の好き嫌いが多かった。あれもだめこれもだめ。「全部食べて!」可愛い子達はそう言ってわたしの給食に鮮やかなインゲン豆とニンジンを溢れさせた。これが可愛い子の敵なのか、そう思ったけど私にはとっても美味しそうに見えた。それと同時にとても悲しかった。残飯処理が悲しいのではなく、美味しそうだと思ってしまう自分が悲しかった。わたしは可愛くなれる人間じゃないんだと、インゲン豆とにんじんに知らされた気がした。
 顔を見られたくない、給食を食べてすぐにマスクをしたあの頃。自分の短い指や大きいお尻、ふともも、黒縁メガネに閉じ込められたちっちゃい瞳、恥ずかしそうに佇むたくさんの赤いニキビ、そして周りの子たちと比べて何倍にも膨れ上がった自意識が私を苦しめていた。

いいなあ いいなあ
あの子はいいなあ とってもかわいい
あの子と喋る男の子 とっても嬉しそう
私だって 私だって

かわいい子ってりんごみたい
つやつや 丸くて 赤くて あまずっぱい
外はお姉ちゃんの口紅みたいな深い赤色
中はあどけなさの残るみずみずしいクリーム色
高いところにあるから手が届かなくて
みんなが欲しがる
男の子に丸かじりしてもらえる
そんなかんじ

わたしは…?
たぶん、インゲン豆とにんじんだ
でも美味しいよ、一緒にいようよ
大丈夫だよ、インゲン豆とにんじんが好きな人がこれから現れる。現れなくても、わたしがここにいるよ、りんごじゃないわたしが、わたしは大好きだよ。ずっと一緒、わたしが大好き。
そう言い聞かせて励まして、大人になっていく。

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