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関東出身のわたしが大阪人を好きな理由

大阪に移り住んで四半世紀をゆうに超えた。

実家がある関東での暮らしよりも、大阪での生活のほうがすでに長い。

関西出身のオットは関西弁。オットの実家も関西弁。大阪で生まれ育った子どもたちも関西弁。職場で出会った同僚たちも、子どもや趣味をつうじての友人も、もちろん関西弁である。

関西弁はすぐうつる。

大阪に住んで数年も経つと「エセ関西弁」を話すわたしができあがった。この「エセ関西弁」、じつは生粋の関西人以外にはよく効くのである。

転勤族のママ友やパパ友はわたしを関西人だと思い込んでいたし、地元に帰れば、ふとした拍子に出るわたしの「エセ関西弁」を聞いた友人は「カミーノもすっかり関西人じゃん!」などと言う。

関西弁はすぐうつる。

数日間わたしと一緒に過ごした地元の友人の子どもは、わたしが大阪に戻るころ、すでに関西弁を話していた。わたしの「エセ関西弁」のパチもんだから、その劣化バージョンの「エセエセ関西弁」だ。

しかし、生粋の大阪人にはバレてしまう。

「姉ちゃん、関西人ちゃうな。話してるときのイントネーションで分かったわ。どっから来たん?」

先日、ふらりと立ち寄った八百屋さんで雑談をしていたら、隣で話を聞いていたおっちゃんがニコニコしながら聞いてきた。大阪在住四半世紀超えのわたしの関西弁はパチもんだ、と易易と見抜く。それが生粋の大阪人。

おっちゃんに出身地を言うと「姉ちゃん、ええとこで育ってるやん。せやけど、大阪もええやろ?」

大阪人の、こういうあけすけなところが好きだ。

はじめましてでも、人との距離をググっとつめてくるこの感じ。初対面なのに「姉ちゃん」とざっくばらんに呼んでくれるところ。これが苦手だと言う人も確かにいるが、わたしはこの距離感がわりと好き。

関東から移り住んだばかりのころ、こちらがOKも出していないのに、人の領域にヒョイヒョイ入ってくるその大阪人の気質にずいぶん救われた。

大阪で暮らし始めた当初、土地勘もなく友人もいなかった。慣れない土地での初めての出産。大きな不安を抱えていたとき、産婦人科の先生は、コテコテの関西弁で、笑いを交えながら不安を取り除いてくれた。

近所のスーパーに行けば、お腹の大きいわたしを見て「妊婦さんはコレ食べたらええで」「貧血予防には、こんなんこしらえたらええと思うわ」と、他のお客さんや店員さんが声をかけてくれた。カゴを運ぶのを手伝ってくれたおっちゃんもいた。

見知らぬ大阪人にどれだけ助けられたか。

初対面でもかしこまった言葉ではなく、知り合いとのおしゃべりみたいに気軽に声をかけてくれる大阪人はあったかい。たちまちわたしの心もホクホクあったかくなった。

3人の子どもたちがお世話になった保育園。

定期的に開かれる保護者懇談会は、子どもたちの家でのようすや育児で困っていることなどをみんなにシェアする場だった。

どの親御さんもフルタイムで働き、毎日時間に追われてクタクタ。それでも、平日夜に開かれる保護者懇談会の出席率はほぼ100%だった。

それぞれの悩みが、その場にいるみんなが共感できるものだったというのもあるが、みんなの話を聞きながら「よっしゃ、また頑張るでー」というパワーをもらえる会だったからだと思う。

そこは、いつも爆笑の渦だった。

どんなに大変なエピソードでも、育児と家事と仕事で疲労困憊の毎日でも、大阪人は、深刻にならずに面白可笑しく話すのだ。

自分の話すエピソードでどれだけその場を沸かすことができるのか、どれだけ笑いをとれるのか。大阪人たちは、その点にただならぬ情熱を注いでいるように思う。

大阪人魂、ここにあり。

当時、大阪在住2年目だったわたしがその場で話をしたとき。わりと長めのエピソードを「うんうん、それ分かるわぁ」「そういうときあるよなぁ」と同じクラスの親御さんたちは相槌をうちながら聞いてくれた。

ようやく話し終えたわたしに、生粋の大阪人ママ友がひとこと。

「で、オチはなんなん?」

「え?オチ?特にないけど…」

「こんだけひっぱって、オチないのん?長い話聞きながら、オチ、ずっと待っとったんやで」

みんな爆笑である。

わたしが話したのに、笑いのすべてをそのママ友がもっていった。おいしすぎるやろ。

そうか、保護者会の発話でもオチを求められるのか。さすが大阪だ!と妙に感心したのを覚えている。笑いの文化が庶民のソウルにしっかりと刻み込まれているのだ。

それ以来、大阪人の前で長い話をするときは、どんなオチをつけようか、本当に真剣に考えている。わたしのオチで大阪人が爆笑してくれたときは「やったった!」とほくそ笑む。

そんなときは、わたしも少しは大阪人気質に近づいてきたな、といい気になっている。

先日、大阪発の日帰りバスツアーに参加したとき。ベテランの添乗員さんが大阪弁でこう言った。

「添乗員の”すだ”といいます。今日は1日よろしくお願いします」

「ところで皆さん。俳優の菅田将暉って、知ってます?実はね…」

そう言ったあと、2.5秒の間があった。えっ?もしかして、菅田将暉のお母さまとか?菅田将暉、大阪出身だし。そういえば、キリリとした眉毛がなんとなく似てるかも…

そう思った人はわたしだけじゃないはずだ。みんなおしゃべりをピタリと止め、添乗員さんを凝視していたから。

「実はね。名字が偶然同じだけなんですわ」

爆笑がおきたのは言うまでもない。

「こう紹介すると、みんなちゃーんと私の名前を覚えてくれはるから、いっつもこう言うてますねん」

そうそう、こういうところ。

初対面でも、笑いで距離をグッと縮めてくる、大阪人のこういうところ。

こういう愛嬌たっぷりなところ、ほんとうに好きなんです。















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