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正義のヒーロー(ショートショート)

 俺はM79星雲からきた正義の宇宙人である。地球を征服しようとする悪い宇宙人や怪獣を倒して、地球を守るためにやってきた。
 ところが、いっこうに悪い宇宙人も怪獣も出現しない。出現しないから、科特隊やらウルトラ警備隊のような組織がない。仕方がないので、自衛隊の1隊員として働いている。
 しかしこれでいいのか。平和だからいいといえばいいのだが、俺が来た意味がまるでないではないか。
 今地球上で問題になっているのは、宇宙人や怪獣でなくて、国々の諍いである。戦争でも起これば、まだ出る幕もあるだろうが、どっちを味方するわけもいかず、どちらも倒さなければなるまい。その際戦死者が出ることについてはどうか。正義の味方が兵隊とはいえ地球人を殺していいものかと自問自答している。
 自衛隊の組織にいる以上、西側諸国の味方をせねばならぬという理屈も成り立つ。果たしてアメリカやNATOが正義なのか?
 確かにロシアは、中国は、北朝鮮は、世界の秩序を思えば悪であろう。かといって正義の味方である俺がその軍を相手に戦って兵士を殺していいわけはない。せめてそれらの国が悪の大型ロボットでも開発してくれたら戦えるのだが。勿論リモートで操縦してもらわねばならないが。
 俺は正義の味方なので、能力は他の隊員と比べ、遥かに優秀である。よってこの度、幕僚庁から中国へのスパイ活動の極秘任務を授かった。命令なので従わざるを得ない。俺は大きくも小さくもなれるので、そんなスパイ活動などへっちゃらであるが、正義の味方が果たしてそれでいいのか。
 最近愚痴っぽくなって、鬱っぽくなってきた。何しろ、地球に来てからまだ一度も変身をしたことがないのである。自分の存在価値はいったい何なのか。自問自答の日々である。
「そうですか。なるほど。よくわかりました」
精神科の医師が俺の上官に向けていった。
「かなり重症なようですね。一度入院してもらったほうが、よろしいかと思います」
 違う。そうじゃない。俺は正義の宇宙人なんだ。誰も信じてはくれない。悪の宇宙人か怪獣が出てこない限り変身はできないのだ。信じてくれ。
「では先生、頼みます」
 上官はそういい、部屋から出ていった。
「では病室に行きましょうか。快適ですよ」
 看護師が呼ばれ、俺は病室に案内された。俺が活躍する日は果たして来るのだろうか。

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