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寄生植物(ショートショート)

 いてててて。鼻の穴が痛い。正確に言うと穴は空洞なので、鼻の穴の皮膚が痛い。化膿しているのだろうか。腫れてはいない。テッシュを突っ込むと鼻血が付いてくる。どこが痛いのだろうと手で触ってみたら、意外や鼻の外、鼻の穴の入り口付近が痛いことに気付いた。
 これはいかなることや。髭剃りで傷を付けたのだろうか、或いはテッシュの突っ込み過ぎが原因であろうか。考えるが一向にわからぬ。鏡で見てみるが、腫れた様子もない。
 そのうち芽が生えてきた。鼻から花が咲きそうである。これでは落語ではないか。俺は千切って捨てようとしたが、病院に行って抜いて貰うことにした。
 とりあえず皮膚科であろうか。そう思って近くの皮膚科によって見てもらうことにした。
「とんでもないことだな。初めて見たよ。何だが抜くのが惜しいな」
 先生は冗談なのか本気なのかわからぬ口調でそういった。人の身にもなれ、俺は心の中でそう叫んだ。
 レントゲンをとって先生が、俺の顔を見ていった。
「これを見て下さい。根がこんなに伸びています。切開して取ろうと思ったけど、手遅れですね」
 冗談ではない。これからどうすればいいのだ。仕事だってあるのだ。
「大きな病院に見てもらいましょう。そして手術をするなり、薬で処置するなりするしかないでしょうね」
「こんな症状に効く薬なんてあるんですか」
 俺は驚いて聞いた。手術をせずに薬で治るならそれに越したことはない。
「ラウンドアップとかいいんじゃない」
 それは園芸に使う除草剤ではないか。冗談じゃあない。
 数日後、俺は大きな病院に行った。大勢の医者が待ち構えていた。余程珍しい症状だろうから、学会にでも発表するんだろう。それがうまくいけば、出世ができる、そういう目をした連中ばかりだった。
「ところで何の植物かな」
 1人の医者が聞いた。聞かれた男は医療服を着ていないので医者ではないのだろう、虫眼鏡で俺の鼻の穴付近をずっとながめている。どうやら植物博士のようだ。
「これは誠に珍しい。花粉症で吸い込んだスギの花粉が受粉して、この方の鼻に根付いたようですね」
 まさかのまさかである。そんな馬鹿なことがありえるだろうか。
「ショートショートだからね、責任ないんだよ。なんでもありなのさ」
 植物学者がいった。
「どうすれば治りますか」
 俺は必死の形相になって聞いた。
「ラウンドアップの原液でもかけてみますか」
 

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