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セカンドライフ(ショートショート)

 仕事を定年退職で辞め、あとは年金生活である。ただ年金だけでは、贅沢はできない。何かアルバイトを探さねばなるまい。
 巷をみたら、コンビニやファミレスでも定年退職をしたような人ばかりが働いている。若者は何処で何をしているのだろう。
 けれど、そういうところで、働こうとは思わない。客相手の商売など技術畑を歩いてきた私には無理な話である。
 今まで働いてきたところで、アルバイトでもいいから雇ってもらえたら、と考えていたが、どうやら無理なようで、新しく職を探すしかなくなった。
 ハローワークに行って見たが、碌な職場がない。そういったら、求人を出している企業に失礼だが、私の希望に適う仕事がない。
 小売業ばかりである。そうでなければ流通業。流通業は見るからに忙しそうだ。体力が持たない。
 いずれにしても体力は必要だ。デスクワークだったので、体力に自信がないので、明日からジョギングでも始めよう。
 そんな中、新聞の折り込み広告に求人が出ていた。映画やドラマ、バラエティのエキストラのバイトだった。
 これは面白そうだと思い応募した。意外や丁度、年配の男性が欲しかったとのことで一発採用になった。
 仕事はひっきりなしにあった。ほとんどが通行人の役であり、時代によっては、江戸時代、明治、大正、昭和と衣装を替えていく。死体の役もあった。戦争ものだった。
 そこで同じエキストラの秀子さんと出会った。年齢は私と同じ65歳だった。夫と死に別れて、今は未亡人である。私はこの歳になるまで独身である。これまで浮いた話がないこともなかったのだが、どれもうまくまとまらなかった。
 私は猛然とチャージを掛けた。常に近くにいて話しかけるようにした。そしてだんだん仲良くなると、車で送り迎えをするようになり、2人で食事にも出かけるようになった。
 遅い春がやってきた。
 しかしある日、彼女の娘が登場し、2人のロマンスは終わりを迎えた。
「いい歳して何なんですか。私の母親に色目使って。エロじじい」
 絶句である。何もそこまでいうことはないじゃあないか。確かに下心がないとはいえなかったけれど。
「ごめんなさい。娘が酷いことを言って。これからはもう2人で行動するのはやめましょう」
 あっけなく、この歳になって振られてしまった。しかもその娘にエロじじいとまでいわれて。
 その晩、私は淋しく酒を飲んだ。そして空しく自慰をしたが、最早うまくできなくなっていた。
 

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