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[訪れる]ウトロ香川/語り切れないだろう、物語

Dear friends.

こんにちは。お元気ですか? 凍える日が続きますね。私の住む香川でも、あちこちで積雪したというニュースが入って来ました。
「今日は最高気温が3度です」と流れた時、「あぁ、道東なら3度はあったかい日に入るのになぁ」と思いました。
そうか、まだ3度だ。
同じ数字のはずなのに、道東を思い出すと、随分暖かな空気として蘇ります。呼吸するとツンと鋭いはずなのに、たった1点の温もりがじわり広がるような何かが。

そういえば、初めての北海道一人旅は、1月末の、寒い寒い時期でした。
道東へ行こうと決めたものの、都市の名前も空港の位置もほとんど知らない状況。距離感覚もないので、移動時間も不明です。観光地と言われるところは、あまり心が動きません。何しろ「冬の北海道」ですから。
さて、どこへ行こうかな、とつぶやいた時、友人が、ふと。
「ウトロには今、おじさんがいるんだよ」
と返事してくれました。

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ウトロにはおじさんがいる。
ウトロという不思議な響きを持つ、街の名前。
ころころと口の中で柔らかく転がるような街の名前に、私はとても惹かれました。
ウトロ。
ウトロ。
口に出すと、ますますその名前が好きになりました。
地図を見ても、漢字表記でなく、カタカナで「ウトロ」。アイヌ語の関係もあるのかもしれません、私はその響きに居心地の良さを感じました。

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そうして私はウトロにいます。
知床斜里駅から、ローカルバスに乗り換えて一時間。
オホーツク海を左肩に抱く、知床半島の西側。
世界自然遺産に認定された、雪に覆われた大地。
自然と動物たちが循環する、世界でも稀有な場所。

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バス停と併設された道の駅で降り、私はウトロを散策しました。
雪で覆われた街。私は足の裏で雪を踏みしめる感触を楽しみます。ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。枯れた小さな植物や花にとって、雪は綺麗なキャンパス。シャッターを押すだけでも楽しいのです。

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さて、交通量もほとんどない小さな交差点に差し掛かり、信号機の隣にある青い看板が目につきました。そこに記された文字に、私は目を見張りました。
「ウトロ香川」
そう書かれていたのです。
なぜこんな場所で、香川という地名が出るんだろう?
関係あるのか、それとも全くの偶然なのか。
私は一人佇んで、その看板の向こう側にあるはずの物語を想像しました。
同行者がいたらその場で騒げたのでしょうが、一人旅の道中です。バスを乗り間違えたり迷子にでもなってあたふたしている、困った旅行者のように見えたかもしれませんね。それくらい興奮してしまいました。

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合流したネイチャーガイドさんに聞くと、こう教えてくれました。
「開拓時代、畑を受け継げなかった次男三男が、北海道に入ってきたんだ。一番多くの入植者は東北だけど、次に多かったのが四国でね。あの辺りには、香川の人たち、いっぱいいるよ」
今から100年以上前、明治・大正時代に行われた、北海道開拓という壮大なプロジェクト。
今のように、すぐに何でも簡単に調べられる訳でもない時代。距離感覚も移動時間も、自然環境も、何もかもが分からない中、かつての香川にいたご先祖は、ウトロに向かって旅立ったに違いありません。その旅は、開拓は、定住は、過酷さは、想像しても仕切れないくらいのものだったでしょう。

香川から遠く離れた地。
香川とは全く違った厳しい自然環境。
そこで生きていくと覚悟を決めた人々。
住処となるエリアに「香川」と、故郷の名前を刻んだ人々。

もし私が、地元の友達に、北海道に行くならどこがいいかな?と問われたら、こう答えたくなるに違いありません。
「ウトロには、故郷があるよ」と。

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私には語り切れないだろう物語を、その地名が教えてくれるに違いありません。

2021年1月9日

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