『成長』について。

  私は野球が好きだ。野球は、各選手が己の役割分担をそれぞれ自覚して行い、それが競合相手より上手く合致した場合にのみ勝利できる、そのようなスポーツではないかと私は考えている。

  皆が知る野球選手と言えばイチロー選手だろうか。イチロー選手のような高打率の選手は後にも前にも見ないだろう。ところで、よく取り上げられる彼だが、何故そこまで取り上げられるかを考えれば、それは人間の成長可能性を感じさせてくれるからではないか、と思う。

  イチロー選手に限ったことではない。「ホームラン王の王」こと王元選手、三冠王を達成させた落合元選手、二刀流を成功させた大谷選手など偉大な記録を打ち立てる人々に私たちが魅せられるのはやはり自らの成長可能性を彼らから感じ取れるからではないだろうか。野球選手のみならず、金メダリスト、ノーベル賞受賞者、億万長者などは人間の成長可能性を私たちに気づかせてくれる。

 「偉大な」彼らがなぜ成長可能性を感じさせてくれるか。それは彼らも生まれたときはたった非力な赤ん坊だったからに過ぎない。''何かしら''の影響を受けて赤ん坊は「偉大な」人になる。そこに私たちは自分達を投影し、自らの成長可能性を感じることができるのだろう。

  今一度、「成長」というのは難題であることに気づかされる。私たちは成長したいという意志があるにも関わらず、成長するどころか退化してしまっていることもある。成長の方法を習得すれば案外楽しく生きることさえできるのではないかと考えるわけである。

  さて、ここで指す成長とは何か。それは端的に言えば、できないことをできるようにすることである。別に身長が伸びたとか等々の話をここで論じるつもりはあるまい。できないことをできるようにするというのは状態の変化であり、ともすればそんなものは不可能だとして、「才能」という言葉で片付けてしまう輩も一定多数はいるのだが、そうした姿勢はなんとも宗教的で私が目指すところでない。だから、ある種メルロ=ポンティのように人間は成長できる、という観点を大切にしたい。

  そこで、成長をするには何が大切だろうと考えてみる。すると成長する前に自分がどんな終着点に向かって成長したいかを考えなくてはいけない。例えば、TOEICの点数を上げたいのに語彙力だけをたくさん身に付けたとしても、TOEICの点数自体がそのまま上がるわけではない。野球選手として一人前になりたいと思っても筋力のトレーニングをし過ぎてボディビルダーになってしまっては成長とは言えない。であれば、成長するには先ず自分の終着点を見つけることが大切であるようだ。これが案外難しい。何故ならば結局のところ、深堀していくと「何故、私は生きているのか」という根本的な話に行き着いてしまうからである。

 では終着点を見つけたとしよう。その終着点の構成要素を挙げて、それぞれに対処して考えてみる。例えば、TOEICならば、語彙力、文法、読解がどんな点数配分でそれぞれ何が問われるかを調べてみる。野球を上達させるならば、自分が苦手なバッティングを向上させるために自分のバッティングを分析する。さらにその上で例えば低めのボールが苦手ならばバッティングセンターで低めのボールを設定して練習する

  というのが巷で言われているような成長理論ではなかろうか。当たり前だが成果が出るのは勿論だろう。さて、成長できない言い訳をするわけではないが、上のあたかも論理的な成長論に全ての点では、私は賛同し兼ねる。そもそも成長の終着点を見つけたとして、それが本当に終着点としてよいのかは他人は勿論、自分も分からない。筋力を鍛えた挙げ句、野球選手になるつもりがボディビルダーになってしまった人をもう一度例として挙げてみる。これは野球選手になるという終着点は満たされていないから''論理的な''成長論では否定される。しかし、実は野球選手になるより、ボディビルダーとして筋力を鍛えるのが本人には向いていたのかもしれない。ボディビルダーが本来の彼かもしれない。ボディビルダーとしての本来の彼を取り戻せたことは人間として一歩を踏み出せた。成長したと言えるのではなかろうか。

  何かひたすら頑張った所で結果が得られずもがき苦しみ、不幸せを嘆く者がたくさんいる。''論理的な''成長論が彼らをさらに不安にさせる。「できないのは徹底的に分析していないからだ。」と。確かに頑張ればできることは多い。そういう楽観的な立場に立ちながら、どうしてもできないことは「今の自分には必要ないことなのではないのか。」と諦めることも必要ではないか。''論理的な''成長論は何とも人間が頑張り屋さん故に自らの首を絞める厳しい理論と言わざるを得ない。大切なのは柔軟に、自然をまねて生きていくこと。であれば、論理というガチガチの枠内で何でも説明できるという堅固な姿勢はあまり褒められたものではないのではなかろうか。

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