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【読書雑記】舞城王太郎『わたしはあなたの瞳の林檎』

文体でも饒舌、と表現されるほどに流れるような言葉があると思う
舞城王太郎の描く若い女性の言葉はそういった類のものだと思う

そしてワードの力がすごい
いまだに『好き好き大好き超愛してる』のタイトルが凄すぎて(語彙力。。)それだけでも歴史に残るような気になるほど

300%濃縮ジュースのようなこのタイトルと冒頭の文章の美しさは変え難い魅力なので、未読の方には強く薦めたい作家です


そうはいっても舞城王太郎は20年近く読んでいませんでした
※そもそも小説を読める状況ではなかった

なんとなし本書を手にして、またビリビリと痺れて物語に吸い込まれてしまいました

面白かったのは、書き下ろしで収録されていた「僕が乗るべき遠くの列車」です

悩む男が女性に振り回されながらも導かれて問題を解決していく、というシンプルでありがちなあらすじですが、細部がリアルでそして本質的に感じれてとにかく面白い

中学生の訳のわからない臆病すぎて何も起こらない現実感もストレートに言葉にできない不器用さも、リアリティにつながっています
(なんでもすぐ表現できてしまう大人からすると理解に苦しむが、中学生ってこんなものだろうとおもう)

また何より主人公が世界の具体も抽象も無価値に思えて達観した(ような)態度をとってしまうことに、共感を激しく感じずにはいられませんでした

僕自身そんな冷めた世界からぬけだせずにいたからです
厨二病に近いけど、強く酔えるほどのモチベーションすらないところがとても良いです


物語の中で、主人公は運命や奇跡と感じれる瞬間を迎えますが、中学生でしかない主人公は考えを変えられるほどの器量がありません

しかし当然ながら冷ややかに世界と距離をおき続けられるほど人は強くはないから、時間が経って世界と和解しようとします

異性の友達(のちに恋人になるであろう)からの投げかけは単純明快で本質的です
その後、冷たい世界を温め続けようと主人公は決心します

人が死ぬこととかこの世の無常を嘆くあまり、人にも物にも価値や意味がないてことにしてそっぽを向こうとしてるだけじゃない?

そうなのかもしれないし、そうでないかもしれません
ただ、これでいいように感じます

青春を青春として消費できるような器用な人も多いと思いますが、歳をとって青春を振り返るのも悪くはありません


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