【読書雑記】『今を生きる思想 ショーペンハウアー 欲望にまみれた世界を生き抜く』梅田孝太
「現代新書100(ハンドレッド)」キャンペーン
なにやら講談社さんが新しい試みをしていました。
本が100円!と貧乏性で本好きな私は飛び付きました。なぜ100円か理由もあります。
(すでにキャンペーンが終了し499円となっています)
「100ページ新書」を「100時間」「100円限定で配信」という「トリプル100」という意味を込めている。
第一弾がなんとショーペンハウアー、という渋い選択で驚きましたが、缶ジュースを買うようにポチッとKindle版を購入しました。
値段ばかりが目立ちますが、100ページ程度の短さも大きな特徴で、缶ジュースを一気に飲み干すように読み終えることができます。
内容はこの後触れるとして、100ページ程度で一冊が完結する新書を読むことは確かに新しい体験で、小説で言うならば短編集もしくはショートショートのような、あっという間の読書体験でした。
今後読み続けるかは分かりませんが、時間が限られている疲れたオジサンには都合の良いライトな仕様でした。
賛否両論があるであろうとは思いますが、新しいカテゴリ、新しい読書体験を生み出した、ということは業界的に素晴らしい取り組みだと思います。
ショーペンハウアーの知名度
現在、ショーペンハウアーがどれだけの知名度を誇っているのかは不明ですが、少なくとも現代ではマイナーの部類に入る哲学者だと思います。
本書でも何度も指摘がある通り、岩波文庫の『読書について』『幸福について』『自殺について』で知られているけど、主著をまともに読んだ人は少ないと思います。
また哲学史の位置づけも微妙で、知名度が圧倒的に高いニーチェが乗り越えた踏み台のようなイメージもあって、ペシミスティックであったり、ニヒリズムに陥る考え方のイメージも強いかもしれません。
その中で今回とても平易に書かれた入門書が大々的売り出されたことは挑戦的な試みで、かつショーペンハウアーの見直しにつながるとても良い機会なのかもしれません。
特に本書では日本におけるショーペンハウアー受容史がコンパクトにまとめられていて、井上哲次郎や高山樗牛であったりと明治時代の有名人がどういった切り口で日本国内で紹介したかも概観できます。
古代インド哲学と西洋哲学を結びつけた世界観を構築していたこともショーペンハウアーの特徴でした。その意味で、西洋化を目指す明治時代の人々にとってショーペンハウアーは、西洋と東洋の架け橋としての高い評価を受けていたことがよく理解できました。
ショーペンハウアーのアクチュアリティー
このシリーズがとてもいいのは、歴史、内容、現代、という3点の切り口でぎゅっと詰め込んでくれているところです。
ショーペンハウアーによれば、僕らは欲望まみれの意志で身体を纏って生きています。我々に見えているのは、意志としての現象の世界であって、ありのままの姿ではありません。
欲望に支配された意志に振り回されて、世界に絶望し苦しむことから逃れるために、ショーペンハウアーが提示することは、宗教的な意志の否定による涅槃です。
つまらない解決にみえるかもしれませんが、日常的な生きるための哲学としてはとても説得力のある内容でした。
特に本書で指摘しているのは、「生まれてこなればよかった」という反出生主義との関係です。その先駆ともショーペンハウアーは評価できるが、救いを示しているのが違いがあると本書は解いてます。
似たような言葉で最近流行っているのは、親ガチャ、です。親ガチャは、身体や社会性の非選性を表しています。意志という逃れられない大きな運命的な力は、こうした人生の不条理を説明するにとても優れた世界観だと思います。
すなわち反出生主義や親ガチャなど、現代的な問題の理解するために、ショーペンハウアーはとても共感しやすい世界観なのではないかと考えています。
最後に
この本は数時間でパッと読めてしまいますが、内容の濃さも保証できます。
新しい読書体験、と表現しましたが、新しい本のカテゴリーを生み出した講談社さんを讃えたいと思いました。
読み終わった後に、同シリーズのハンナ・アーレントも購入しました。(これも499円とお得!)
今後のシリーズ展開もとても楽しみです。
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