短歌+ショートエッセイ:言葉がなじんでゆく
あたらしい言葉はすこしずつなじむあなたが記憶になったあとでも
/奥山いずみ
先日、純喫茶というところに久しぶりに行った。
古めかしい建物に、なじみらしいお客が思い思いの時間を過ごしていて、ゆったりとしたいい空間。
ふと、角の席が空いたとき、店員さんが靴を脱いで椅子の上に立った。店の天井近くの棚にプレイヤーが設置してあって、手動でCDを交換していたのだ。
それまではくぐもった声の女性歌手の歌がずっと流れていたが、CDが入れ替えられたことで昭和から平成一桁年代くらいの懐かしいアニソンメドレーに変わった。わたしが子どもの頃よく聴いていた曲も流れる。おお、エモ路線の曲ばかり、と思う。
「エモい」という言葉は、感情が動かされた、懐かしい気持ちになった、というような意味らしいが、この言葉を会話文で初めて聞いたのは、今は疎遠になってしまった友人と話していたときだった。「エモい」という言葉は知っていたものの、実際の場面でつかわれるのを耳にしたのは初めてだったので、「こういう文脈でつかうのか」と変に感慨深く感じたのを覚えている。
その当時は新語として耳に響くばかりで、ちっとも自分の気持ちを乗せることができなかった言葉、「エモい」。しかし今は、ふとつかいたくなる場面がある。きっと「エモい」という言葉にも、少しずつ自分の記憶が積み重なっていっているからなんだろう。
Cover photo by Margarita Marushevska on Unsplash
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