藤沢数希『コスパで考える学歴攻略法』強く推奨する
読みました。
非常にfairな内容であり多くの人におすすめできる書籍であった。中学受験、海外留学、医学部に行くべきか、大都市圏と地方、英語学習などなどについて、ここまで網羅的かつ客観的に書かれたものはなかったのではなかろうか。
中学受験して私立中高一貫校に進み、宮廷医学部に進学するという絵に書いたような学歴攻略をしてしまった私の実感と合致するところが多い。
詳細についてはぜひ本書を読んでいただきたいのだが、備忘録も兼ねて要点を著しておく。
なぜ学ぶのか
まずいちばん大事なのは第3章とあとがきである。ここでは学問とはなにかが書かれている。具体的には修士課程までは人類がすでに得た知識を習得する。部活で言えば球拾いとか基礎練だ。博士課程からは練習試合で、人類の知の領域を広げるという一番おもしろい部分になっていく。
このことがわかっていないと勉強はつまらないものになる。もちろん大学受験がゴールでもいいのだが、どうせなら知性の最高到達点を目指したい。
著者は学部の時代に、20年間学んできたことがシュレディンガー方程式に集束することを知って深夜のファミレスで感動するのだが、私にはそんな瞬間が来ることはなく、大学で数学はやめてしまったのであった。
中学受験
中学受験をすると決めたらSAPIX、浜学園のような大手の塾に入ること。親が自分で教えようとしてはいけない。塾に入ってしまえば、濁流に呑み込まれるごとく課題をこなしていくことになる。これらの塾はけっして安くはないが、蓄積された膨大なノウハウを利用しないという選択肢はない。
中学受験をすると小4-6の塾代、中学高校の学費などで余分に1000万円かかる。このコストをどう見るかは各家庭の経済力によるだろう。
しかし中学受験の最大のデメリットは費用ではない。複雑怪奇な中学受験用の算数に多大なる時間を投入しなければならないことだ。
またトップクラスの進学校では英語が課されないので英語を学ばない。つまり大学受験やその後の学問で必須の数学と英語がお留守になる。
受験しながら英語もやればいいんじゃね?って思う人はなにもわかっていない。算数でまともに得点できなければ合格は覚束ないので英語をやる暇などない。小学生たちがいかにややこしい計算をしているかも紙上で解説されているのでぜひ読んでほしい。中学受験を経験した親御さんたちはきっと懐かしい気持ちになるだろう。
なぜ中学受験算数に心臓を捧げないといけないか説明するのはめんどいので、そのまま引用する。
受験勉強しながら数学もやればいいんじゃね?って人はなにもわかっていない。方程式などを使って解いてたら時間が足りなくなるのが中学入試の算数である。また、そもそも方程式やベクトルを使うかどうか判断することで脳に負荷がかかるのも無視できない。
メリットについても解説されている。まず親子がいっしょに戦うイベントは中学受験以外にはないのである。たとえ失敗したとしても、親子の団結が強くなるかもしれないし、またそこで得られた経験はその後の人生に生きるだろう。もっとも親子関係が険悪になり毒親呼ばわりされるリスクもあるのだが。
算数の弊害は大きいが、国語・社会・理科についてはコスパはいいと著者は判断しており、私も同意である。中学あるいは高校入試くらいの国語はしっかりやりこんでおいたほうが色々と都合が良い。
中高一貫校の大学入試におけるメリットを測定するのは難しい。なぜならあんな難しい試験をクリアする子供は、中高一貫校に行かなくても高いパフォーマンスを発揮するかもしれないからだ。またそうしたセンシティブなデータは公開されないものである。
ところがプレジデントファミリー2012年6月号に、駿台が中高一貫進学校と公立校の模試の成績を比較して公表しているのだ。それによると偏差値にして3くらい改善している可能性があるとのことだった。上述の素質要因を除外するために理系国語の差をそこから引くと、1.5くらい改善している可能性があるようだ(この辺の推論の立て方なんかは、非常に勉強になるのでぜひ読んでほしい)。
これを大きなメリットとみるかどうかは判断のわかれるところである。比較対象を大阪の北野高校のようなトップ公立校にすればこの差はさらに縮まるだろうから、かなり微妙だよねって私などは思うのであった。
また北野高校と中途半端な私立進学校を比較するとこの差はほぼなくなると考えられるので、1000万円ドブに捨てたことになるだろう。
それから私は自分の経験から、トップクラスの中高一貫校の最大のメリットは、優秀な同級生と切磋琢磨できることだと思っているのだが、これについては記載されていない。
萎縮して落ちこぼれるというデメリットについては軽く触れられていた。
中学受験しないという選択肢
ほとんどの家庭は上掲の1000万円を工面できないから公立中学に進学するだろう。そこからさらに北野高校のようなトップクラスの公立に行ければコスパはかなり良さそうだ。
また中学受験をしないから数学や英語の勉強を早期に開始できる。高校入試の数学や英語は、中学受験算数と違って、学習したことがちゃんと将来の礎になるのがいい。
ただ小学生や中学生に高校入試レベルにとどまらず、高校レベルの数学を自発的にやってもらうのは簡単ではないとはっきり釘を刺しているのは好感がもてると思った。
ちなみに内申はさほど恐れなくてもいいと知ることができたのはよかった。
ただし中学受験を検討する親御さんたちがいちばん気にする、公立中学の治安の悪さについては言及されていない。
著者が過去にだしているメルマガでは、長期の不況で教員には有能な人材が流入しており治安は大幅に改善していると記載されていたのだが。。。
まあコロナ自粛に唯々諾々としたがっている子供たちをみていると治安の心配なんかせんでええやろと私などは思うのだけどね。
最後に、東京のように上位層がごっそり中学受験で抜けてしまう地域は逆に高校受験のコスパがいい、という観点は面白かった。中学受験が過熱してどんどんコスパが悪くなっている首都圏では、高校受験が有利ってのはありうる話だ。
英語学習と留学
受験だけでなく様々な局面で重要な英語の学習法についてもそれなりのページ数が割かれている。英語ガチ勢の皆さんからみても正しいことが書かれていると思われる。おそらく著者は第二言語習得についても造詣が深い。
日本の英語教育の良いところ悪いところについても正確に理解されており、こうした点からも本書はfairであると判断できる。
フィリピン留学についても紹介されている。なお、日本人が多く行くであろうセブ島の人達が話すのは、英語とCebuanoで、タガログ語ではない。
英語を学ばせたいなら中学生くらいに留学させるのが一番いいってことで、留学の費用も提示されているのだが、やっぱ高いよね。。。ただし中学受験の1000万円と比較したら高いとも言い切れないだろう。なお私立中学に進学して留学すると、その期間は進級できない。公立だと自動的に進級するのも、中学受験しないメリットだ。
ちなみに高校の時に同級生がアメリカに留学して1年留年してしまったのだが、童貞を捨てて帰ってきたので男子校では非常に尊敬されたのであった。そんな彼もいまや東大教授である。
いちばんコスパがいい留学は、著者自身がやったように、日本の学部を卒業して海外の大学院に奨学金で進学することだ。日本の有力な大学は、アメリカなどと異なり国立であるため、大変コスパがよい。しかし大学院は学費を払わないといけないので、奨学金が出るなら海外のほうがいいみたい。
また本書は日本の教育システムの優れた点についても多く言及しており、コスパを考慮すると、かならずしも留学がベストではないなあと思ったのだ。
医学部について
本書は理系の最優秀層が医師になることの是非を問うものではないから、医学部進学はコスパが良いとシンプルに診断している。東大理1や文1に行ける実力があるなら、地方の国公立医学部は十分に合格できるのに、東大卒の平均年収は勤務医の半分である。
著者は金融機関勤務の経験から、2倍も期待リターンが違ったら話にならないと言っているが、私もそう思う。医師免許いいよ、マジで。
それに海外に移住することを考えても有利だ。医師としての技能はそのまま海外でも通用する。ライセンスを取り直したり、研修医からやり直しとかめんどいことはあるけど、この国の未来を悲観している親御さんは真面目に検討してもいいのではないか。
まとめ
これだけの内容で880円は格安であり、一家に一冊レベルで推奨したい。高校生くらいまでのお子さんがいる家庭なら十分にもとがとれるだろう。
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