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稲荷誠「頭のいい子には中学受験をさせるな」読書メモ

中高一貫教育のメリットは高校受験対策をしなくてもよいので中学生のうちに高校レベルのことを学習できることだ。しかしそれなら中学受験しないで小学生に中学高校レベルのことをさせればいいのでは?という発想も当然でてくる。そのアイデアを見事に実行して、学習の進め方を具体的に書いたのがこの本だ。著者は京都府下で塾を経営しているらしい。

まず中高一貫教育についての説明。灘は中1で中学の数学が終わる。しかしほとんどのトップクラスの進学校でも2年かけているのが現状だ。灘にいく生徒が特別優秀だからだろうか?そんなはずはないと実践していき、ついには小学生にまで中学算数を教えるようになったという。

私は灘中の入試に落ちた人間だが、中学に上がってから通い始めた塾では中学算数は中1の夏くらいには終わっていたような気がする。というか高校数学にシームレスに移行するのでいつのまにか終わっていたという感じだ。

というか小学生のうちに1/3くらいは履修していたというのが本当のところである。というのも、私が小学生のときに通っていた塾は、2月で受験が終わると、3月は中学校レベルのことを教えていたのだ。今の中学受験用の塾は1月に終わって2月から新学期だからこんなサービスはついていないだろうが。

これらのことを考慮すると、その後の人生でなんの役にも立たない、中学受験の複雑怪奇な算数に血道を上げるひまがあったら、どんどん先に進めばいいのである。進学校に入れるような子供ならなおさらだ。

しかしそれなら大学受験もけっこう無駄ということになる。数学を学ぶのはなんのためか?数学科に進んで数学の研究をするためだったり、物理学のように自然現象を記述するためだったり、エンジニアのように便利なものを作るためだったり、経済学者のように膨大なデータを扱うためだ。これらの用途には高校レベルの数学では全く足りない。大学に入っても数学は学び続けないといけない。だったら大学受験の勉強してる暇があったらさらに高度な数学を身につけるべきではなかろうか。

また高校レベルの数学はけっして簡単ではないので動機づけが大事だ。さらに高度な数学を学ぶために必要なことだと理解させ、それはどんなに有用で楽しいことかを伝えること。だから著者は文科省の決めた指導要領にとらわれず楽しさを優先して教えるようにしているという。

というわけで中学受験は無駄という結論である。これは数学のみならず、英語のことを考慮するといっそう頑健な結論と思われる。10歳くらいの第二言語習得に最も適している時期に英語に時間を割かないのはもったいなすぎるのだ。

以上のことは中学受験をしたことのある人なら納得してくれると思う。もちろん中高一貫校に通うメリットはたくさんある。優秀な同級生との切磋琢磨、自由な校風などなど。だからお金が捨てるほどある親なら中学受験させたらいいのかもしれない。しかし、子供は優秀だが私立にいかせるお金はないという家庭には本書は福音である。

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