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【実話怪談】散歩

北陸の豪雪地域で土木作業員をしている田所さんが働く会社の主な事業は舗装工事だが、冬場になると除雪の仕事も受注する。
車体の前方に大きな板状のアタッチメントを取り付けた重機で、道路に降り積もり踏み固められた雪を削り、路肩に寄せ集めていく仕事だ。

とある日の深夜、田所さんが二車線の幹線道路でその除雪の仕事をしていると、前方数メートル先に、どこからやってきたのか、黒いコートを着た中年の男が現れて、頭上で両手を広げて何やら合図を送っていた。
何事かと驚いた田所さんは、重機から降りてその男に事情を聞くことにした。
その場に立ち尽くす男に近づくと、田所さんはあることに気がついた。
男の腰辺りから、犬を散歩せるときにつけるリードが垂れ下がり、男の背後に向かって延びているのだ。
目でそのリードを辿っていくと先端に何かがくっ付いている。
犬ではなかった。サッカーボールほどの大きさの白い球体がふたつ縦に積み重なって出来た、雪だるまだった。
上の白い球体の真ん中あたりに首輪が巻いてあり、リードはそこに繋がっていた。
シャツか何かの黒いボタンが目を模しているようだった。

異様な雰囲気に田所さんは不安を感じながらも、男に恐る恐る話しかけることにした。
「どうかしま…」
田所さんが言いかけた言葉に被せるように、男が叫び声を上げた。
「雪だるま除雪してくださーい!僕ごと除雪してくださーい!」
すると、緩んでいたリードがピンと張りつめる。
雪だるまが男をなぎ倒す勢いで、好き勝手に四方八方にバタバタと動き回っていた。
そうこうしているうちにリードは引きちぎられ、雪だるまは男から離れて、物凄いスピードでどこかへ行ってしまった。
「ふぎゃあー!」
男は奇声を上げながらそれを追いかけて行き、姿を消した。
田所さんはただ呆然とするしかなかった。

「悪夢でしょ?でもそんなことあった後もちゃんと作業に戻って仕事終わらした俺、凄くない?」
田所さんはそう誇らしげに語った。










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