【実話怪談】卒業アルバムの寄せ書き
永田さんは、二十五歳の時に中学校の同窓会に出席した。
三年の時のクラスメートで、いつも一緒に行動していた女子五人のグループで一つのテーブルに固まり飲んでいた。
大学を卒業し、お互い就職したあたりからは徐々に疎遠になりつつあったが、集まるとすぐに当時となんら変わらない、あの頃の五人の雰囲気に戻り、賑やかに再会の場を楽しんでいたそうだ。
「グループの中にイナちゃんって子がいて。稲村さんだからイナちゃんなんですけど、その子が卒業アルバムを持ってきてたんです。みんなで見ようよって」
顔と体をぎゅっと寄せ合い五人はアルバムに夢中になった。
懐かしく、そしてどこか気恥ずかしくもなる写真の数々を見て歓声とも悲鳴ともつかない声を出しながら大いに盛り上がった。
写真を見終わると、今度は空白のページに書かれた寄せ書きを読み始めた。色とりどりのペンで書かれた文字が踊っていて華やかだった。
「真剣なお別れメッセージとか色々書いてあって面白かったんですけど、その中に〈えっちゃんの大予言!稲村さんは二十五歳で死にまーす!〉っていう、何これ?っていう、ピンクの蛍光ペンで書かれた書き込みがあったんです。内容も悪ふざけが過ぎるし、それに、えっちゃんって誰?ってなってみんなで顔を見合わせました」
えっちゃんと自称していたり、それっぽい名前のクラスメートはいない。ならば他のクラスの生徒かといえば、寄せ書きは同じクラスの生徒しか書いていないはずという記憶で皆一致した。同窓会に出席していた誰もがそんな事は書いた覚えはないと言う。筆跡もわざと崩したような独特な物で誰とも似ていなかった。
「稲村さんは元気にまだ生きてまーす!って、イナちゃんがおどけて言って、変になった空気が和んで、みんな覚えてないけど、当時良く分からない変な冗談が流行ってたんだろうねって事で結局その場は収まったんですが」
謎の予言は当たってしまう。
稲村さんは同窓会から約一ヶ月後に車にはねられ亡くなったのだ。
稲村さんのご両親からお願いされ、永田さんは葬儀の受付係をする事になった。悲しみにくれる最中、きちんと役割を果たせるか不安だったが、少しでも稲村家の力になれるならと永田さんは引き受ける事にした。
葬儀当日、一人の年配男性から受け取った香典を見て永田さんは目を疑った。表書きの下、名前を書く場所にピンクの蛍光ペンで〈えっちゃん〉と書かれていたのだ。
「動揺しました。でも後ろに列が出来てたんでその場はなんとかやり過ごして、葬儀が終わってからその男性に声を掛けたんです。そしたら、ちゃんと自分の名前を書いたって怪訝な表情で言われました」
その後、永田さんは会計係に頼み込み香典を確認したが、〈えっちゃん〉と書かれた物はいくら探しても見つからなかった。
心身ともに疲弊しきった永田さんは葬儀場を後にすると、そのままの足で実家に帰り、その日は泊まることにした。
ふと思い立ち、中学の卒業アルバムを引っ張りだして寄せ書きのページを見てみた。
〈えっちゃんの大予言!永田さんは三十歳のときに足の小指をタンスの角にぶつけて骨折しまーす!〉
そう書かれていた。
「それ見た瞬間なんだか小馬鹿にされたような悔しさと悲しさが同時に込み上げてきて。なんなんだよこれって思って。ずっと我慢してたんですけど、堰を切ったように涙がポロポロと流れてきて」
永田さんは涙を拭いながら、油性マジックを手に取ると、乱暴に謎の予言の文字を真っ黒に塗りつぶした。
あれから数十年たつが、結局あの書き込みがどういうことなのか今でもよく分からないし、永田さんへの予言は外れ、三十歳のときに足の小指を骨折することはなかったという。
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