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『文壇バー風紋青春記 何歳からでも読める太宰治』を読んで

私も『人間失格』を読んだことがある。
そう、しっかりと覚えている。『人間失格』という作品の衝撃。「どうしよう。見つかってしまった、竹一に。」と文庫本を閉じる。誰もいない。大丈夫、私の周りには竹一のような鋭く白痴な存在などいない。これを読み返すことさえしなければ、私はこれからも世界をだまし続けていくことができるはずだ。安心する。しかし葉蔵の最期を見たか。くだらないな。くだらない。くだらない人間。くだらないし、こわい。将来がこわいよう。こわい。怖い。私もくだらない。同じだ。葉蔵だ。葉蔵は私だ。人間だ。人間がばれてしまう。ばれたくない。どうしよう、どうしよう。17歳の夏の思い出。これを「青春のはしか」と呼ぶのだそう。知らなかった、感染力は凄まじいぞ!それから『人間失格』を一度も読み返していない。今も竹一に見つかるのが怖いから。「やあやあ、まだ生きていたの?」と、言われたら一体どうやって答えればいい?

『文壇バー風紋青春記 何歳からでも読める太宰治』の著者、南田偵一さんは10代最後の夏に、大学の課題で『人間失格』に出会ったのだそう。ここでは10代~70代それぞれの年代へ向けてお勧めの太宰作品を紹介してくれている。これって、作品すべてを読破して区分分けしているのだからすごい!ちなみに『人間失格』はやはり10代にお勧めされている。若者よ、生きよ!笑
太宰治の作品紹介と併せて文壇バー風紋について。南田さんが卒業論文を書きあげるための取材で訪れたのが風紋だそう。生きた頃の太宰と関わりが深かった女性がママをやっている。下戸の青年が新宿のバーの扉を開ける緊張(30代になっても初めての店って緊張するのに!)から始まって、文壇バーの閉幕のお手伝い、ママとのお別れまで。その濃密な人間関係と経験がうらやましくって仕方ない。
読み物としてはもちろん、記録(特に近代文学を専攻している学生にとってはありがたい一冊なのでは?)としても間違いない一冊だあ!だあ!






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