龍人奇譚 ~力屋丈右衛門~
村を焼く炎が夜空を照らす。業火を背に、二つのものが対峙する。
共に異形。影に覆われた輪郭だけなら鎧を纏った人にも見える。しかし実像が露になれば、魔物か鬼神か、或いは龍がその身を人に似せたものか。
彼等は互いの隙を窺い、いつでも攻撃と防御に移れる構えを取っている。戦っているのである。
炎の及ばない場所に集まり、推移を見守るのは村人たち。一人たりとも命を落としていないのは幸運の為だけではない。
二つの異形は激しく争った。その仔細を語れる者はいない。最終的には一方の拳がもう一方を撃ち、吹き飛ばした。それが決着であった。
勝利した異形は恐ろしげな顔を村人たちに向け、流れてきた煙にほんの数瞬その姿が隠れたかと思うと、平凡な格好をした一人の男に変わっていた。彼は村人が無事であること、そして村そのものを守れなかった申し訳なさから、泣き笑いの様な表情を浮かべた。
つまりこの物語は、そういうありきたりなヒーローの話だ。
【続く】
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