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本屋プラグの ためにならない読書③

「勉強のできるひともできないひとも、力の強いひとも弱いひとも、みんなの気持ちがよくわかるひとがいいって、いってるんだと思うんだ。これは、ようするに、民主主義の問題だと思うよ」「みんなの意見を、じっくりきいて、それにしたがってくれなきゃあ。それも、とくに弱い立場のひとの意見をね」。児童文学作家、那須正幹さんの『花のズッコケ児童会長』(1985年)の中のせりふだ。

 瀬戸内海に臨む稲穂県のミドリ市に暮らす小学6年生、ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの3人が毎回、さまざまな事件や騒動に巻き込まれる「ズッコケ三人組」シリーズ。小学校の図書館で手にした思い出のある方もいると思うが、大人になった今、改めて読み返しても、深く共感したり、考えさせられたりするエピソードの多いことに驚かされる。


 『花のズッコケ児童会長』は、3人が通う花山小学校の児童会長選挙を巡る物語。有力候補は、勉強もスポーツもできる優等生。柔道の道場に通っていて、スポーツを通じて心と身体をきたえることを訴えているが、裏では気の弱い子どもや、身体の弱い子どもを“くず”と見下し、“けいこ”の名目で仲間とリンチを加えている。その事実を知った3人は、彼の児童会長就任を阻止するため、対立候補を擁立して選挙戦に挑む。

 民主主義社会のリーダーに求められる資質とは何かを問うエピソードであり、日本の、いわゆる体育会系のスポーツ文化への批判も垣間見られる。同時に、児童会長選挙とはいえ後援会を結成し、両陣営とも支援者を募るため禁止されている金品の授受が行われるなど、過熱する大人顔負けの選挙運動は、現実社会をパロディー化した喜劇としても面白い。女性候補者へのセクハラが描かれていることも注目に値するだろう。

 『ズッコケ三人組ハワイに行く』(97年)では、ハワイを訪れた3人と、現地の日系人家族との交流が描かれる。家族の祖父は明治時代、(広島県がモデルの)稲穂県からハワイに渡った移民一世。老人の口から語られる、さとうきび畑での過酷な労働に従事させられた移民一世の記憶や、第二次世界大戦下での日系人差別の歴史。また、自分たちを見捨てた祖国への複雑な感情。現地で生まれた民謡「ホレホレ節」(「ホレホレ」とはハワイ語でサトウキビの枯れ葉をむしる作業を意味する)が物語の中で引用されるなど、ハワイの日系移民史を知るうえでも貴重な作品だ。

 78年の第1作『それいけズッコケ三人組』から2004年の『ズッコケ三人組の卒業式』まで、全50巻が刊行された「ズッコケ三人組」シリーズには、まだまだ紹介したいエピソードがある。かつて子どもだった大人が、再び読んでも十分に楽しめる「ズッコケ三人組」を、かなりの駆け足にはなるだろうが、次月も引き続き紹介したい。

(本屋プラグ店主・嶋田詔太) 

※毎日新聞2021年6月25日掲載

https://mainichi.jp/articles/20210625/ddl/k30/040/432000c

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花のズッコケ児童会長(作・那須正幹 絵・前川かずお ポプラ社)

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