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レティシア書房店長日誌

長田弘「自分の時間へ」
 
 
詩人長田弘のエッセイー集です。(古書1400円)著者はわかりやすい言葉で、生と死、人生を見つめた素敵な詩集を沢山出しています。詩はちょっと苦手という方にも、オススメです。一方で、エッセイや旅の記録、書評や絵本の紹介も出していて、こちらも詩人らしい瑞々しい言葉で、綴られています。

挿画:A・ウォーホール

 「古本屋には、本の声を『聴きに』いった。黙りこくっている本のあいだに、ここにいると、こちらに語りかけてくる本がある。ない本を探しにゆくのではなく、そこにある本の声を聴きにゆく。語るべきことをもつ本は、かならず本のほうから語りかけてくると思う。聴くものに聴こえるだけのひそやかな声で語るのが、本だ。」著者が若い時に古本屋に足を運び、本棚を見上げた時に感じた思いです。
 ミニプレス、ZINEの原点はここかと思う文章にも出会いました。
「野球が野球少年を生み、昆虫採集が昆虫少年を生んだように、あるいは鉱石ラジオが電波少年を生んだように、ガリ版の文化が生んだのは編集少年だった。そうすることで、ガリ版で自分の新聞をつくる。雑誌をつくる。パンフレットをつくる。そうすることで発言の場、コミュニケーションの場をつくる。そうした魅力に誘われる編集少年をそだてたのは、ガリ版の文化がもたらした個人的なメディアというものの可能性だった。」
 若い方には、ガリ版印刷って何?だと思われますが、かつては最も身近で誰にもできる印刷方法でした。例えば、ビラという手渡しの文化を生んだのもガリ版でした。
 また、著者はネコ好きで三びきの猫と暮らしていました。それぞれ、テキサス、シカゴ、ソックスと名付けられています。
「テキサスはすでに十六歳。シカゴは十五歳。ソックスも十四歳。テキサスはかつての跳躍力を失った。じぶんでできること、できないことを正確に判断して生きるようになった。シカゴは甘えるよになった。ソックスは呑気になった。人間に先んじて、猫は老いる。生きものは賢い。猫たちはじぶんの老い方を知っている。 幼い日から、いつも生きものを飼って一緒に暮らし、わたしは生きものたちの死によって、死についておおくをまなんだ。いま、三匹の老いた猫と一緒に暮らし、老い方についておおくをまなぶ。人間はみずからまなばなければ何もできない。無知な生きものなのだと思う。」
人を「無知な生きもの」と定義するところが素敵です。そこから、さまざまなことを学び、知恵をつけてゆく。こんな風に、それぞれのエッセイにウンチクのある言葉があふれています。
 「本棚の本を見れば、人となりがわかる。というのも、本棚の本の色、本棚の本の文字には、じぶんでも気づかぬうちに、いつのまにかかならずその人のもつこころの色、こころの文字がかさなっているからだ。本の装丁は、ただ単にその本を飾るものではなく、その本を読んだものの心映えを、いつのまにかあらわすようになる。じぶんのこころの色、じぶんのこころの文字を知りたければ、じぶんの本棚にある本を見つめれば、きっと見えてくる。」本と付き合って数十年経ちましたが、いい文章に出会いました。

●レティシア書房ギャラリー案内
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円著者サイン入り)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)


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