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閑話休題:アベノミクスの功罪 ── 一時的効果とその後の構造課題


アベノミクスの概要と一時的な効果

X(旧Twitter)を見ると、トレンドに「アベノミクス」があった。

消費税に物価高、震災や戦争……。経済格差、教育格差、被災地再建問題から国防論まで、それらなくして経済動向や政治についても語れない。一方で、憲法第九条の改憲は反対である。
現代の資本主義経済の限界を日常生活を送る中で感じざる得ない。

そのような中で、経済学者らの書籍を読み返しており、タイムリーな話題だった──アベノミクスは結局何をもたらしたのか。
「アベノミクス」は2012年に安倍晋三内閣によって打ち出された経済政策パッケージである。当初の意欲的な金融緩和と財政出動により、一時はデフレ脱却や企業業績改善など一定の効果が見られた。しかし、それらは一過性のものにとどまり、構造的な課題解決までには至らなかった。

現状の経済指標と示唆する問題点

税収の一定の成長にもかかわらず国債残高の上昇と円安が進行している状況は、以下の経済的な側面を示している。

1. 財政赤字の継続
消費税率の増加が税収を増やしているが、国債残高が増加していることは、税収増加が財政赤字を埋めるには不十分であることを示す。これは政府支出が収入を上回り、その差額が国債の発行で賄われていることを意味する。

2. 経済成長の鈍化または不均衡
国債残高の増加は経済成長が財政赤字の解消や債務減少を支えるのに十分でないこと、あるいは経済成長が特定のセクターや人口層に偏り、全体としての経済利益を生み出していないことを示唆する。

3. 金融政策との相互作用
円安進行は日本銀行の金融政策が国際市場での円価値に影響を与えていることを示す。量的緩和や低金利政策が円供給を増やし、その価値を下げることがある。

4. 投資家の信頼性への影響
国債残高の増加と円安は投資家が日本の経済政策や財政の持続可能性に疑問を抱いていることを示す可能性があり、国際的な信用評価に影響を及ぼし、国債の利子負担を増大させるかもしれない。

これらの状況は政府が財政再建と経済成長の適切なバランスを見つける必要があること、支出の効率化、経済成長を促す改革、そして長期的な財政健全性を保つ戦略の必要性を示している。

アベノミクスの構造的問題点

国債残高の上昇と円安が進行する中で税収が増加しているにも関わらず財政状況が改善されていないという現象は、失政の兆候である可能性を指摘する。税収の増加は、通常、財政赤字の縮小や公的債務の削減に寄与するはずだが、そうでない場合、以下のような問題が存在すると考えられる。

  1. 支出の過大: 政府支出が適切に管理されていない、または非効率的であるために、増加した税収を上回っている可能性がある。

  2. 経済政策の不整合: 財政政策と金融政策の間に協調性が欠け、財政政策の効果を金融政策が相殺してしまう場合がある。

  3. 経済成長への投資不足: 税収を経済成長を促進するための投資に十分活用できていないか、その効果が現れていないことが原因かもしれない。

  4. 外部要因への対応不足: 国際経済の変動や災害など外部からのショックに対する準備や対応が不十分であることが円安進行の一因であるかもしれない。

これらの指摘は、政策立案者が直面する課題を浮き彫りにし、より効果的な財政管理と経済政策の立案が必要であることを示している。政府は、支出を抑制しつつ経済成長を支え、かつ為替レートの安定を図るための政策を策定することが求められている。
アベノミクスの最大の問題点は、累積債務のGDP比が過去最悪を更新し続けたことだ。2024年現在、国債残高は戦後最大となり、将来世代への債務転嫁が危惧される。また、財政健全化の遅れから生じた円安基調は、輸入コストを押し上げ、国富の海外流出と国内物価高を招いた。

一方で、大企業減税は所得再分配機能の後退を招き、可処分所得格差を拡大させた。非正規労働者の増加と実質賃金の長期低迷により、中間層以下の生活水準は改善が見られない。宇沢弘文が提唱した「ゆたかな社会」の実現には程遠い状況だ。

「ゆたかな社会」への条件

経済学者、宇沢弘文氏の著書『社会的共通資本(岩波新書)』によれば、「ゆたかな社会」に必要な条件は以下の5項目が必要である。

「ゆたかな社会とは、すべての人々が、その先天的、後天的資質と能力とを充分に生かし、それぞれのもっている夢とアスピレーションが最大限に実現できるような仕事にたずさわり、その私的、社会的貢献に相応しい所得を得て、幸福で、安定的な家庭を営み、できるだけ多様な社会的接触をもち、文化的水準の高い一生をおくることができるような社会である。このような社会は、つぎの基本的諸条件をみたしていなければならない。 (1)美しい、ゆたかな自然環境が安定的、持続的に維持されている。
(2)快適で、清潔な生活を営むことができるような住居と生活的、文化的環境が用意されている。
(3)すべての子どもたちが、それぞれのもっている多様な資質と能力をできるだけ伸ばし、発展させ、調和のとれた社会的人間として成長しうる学校教育制度が用意されている。
(4)疾病、傷害にさいして、そのときどきにおける最高水準の医療サービスを受けることができる。
(5)さまざまな希少資源が、以上の目的を達成するためにもっとも効率的、かつ衡平に配分されるような経済的、社会的制度が整備されている。」

『社会的共通資本(岩波新書)』宇沢弘文著

格差是正と持続可能な成長の両立が課題

経済学者トマ・ピケティの理論に従えば、富の集中と格差拡大は成長を阻害する。アベノミクスはピケティが警鐘を鳴らした「r>g」(資本収益率>経済成長率)の長期化に拍車をかけた面がある。
今後は財政健全化と富の再分配を両立させる新たな経済政策が必要不可欠である。具体的には、法人実効税率の引き上げや累進課税の強化、教育・医療など公共サービスの拡充が考えられる。企業への過度な減税では格差是正につながらず、ピケティの理論に反する。
国民全体の「生活の質」を高めるため、成長と分配の好循環をもたらす政策転換が急務といえよう。宇沢の「人間的な豊かさ」を実現するには、経済的な富裕のみならず、文化的・精神的な充足も重視しなければならない。
以上のように、アベノミクスは当初の期待とは裏腹に、財政健全化の遅れと格差拡大という構造的課題を生み出した。今こそ新たな発想に基づく、持続可能な包摂的成長戦略が求められている。

これまでのデータと分析

Pythonでプロットしてみた。
プロットデータは、以下のものを用いた。
1985年から2023年までの各種データ
・日本の国債残高(赤色線)財務省
・平均為替レート(青色線)日本銀行
・消費税収(緑色線)財務省
・平均労働賃金(紫色線)厚生労働省
・消費物価指数(橙色線)総務省統計局

災害(東日本大震災とコロナ禍)に縦線を引いた。

図1
 国債残高をみると、1990年代後半から急激に上昇し始め、近年さらにその傾向が強まっている。
一方、消費税収は増税に伴い段階的に上昇しているものの、国債残高の上昇を相殺するには至っていない。
このことから、増税による税収増加では財政赤字を埋め合わせることができていないことがうかがえる。 また、為替レートの推移を見ると、2012年前後から円安基調が顕著になっている。
これは同時期に開始されたアベノミクスの金融緩和策が、円の価値下落をもたらした可能性を示唆している。
平均賃金は長期的にはほぼ横ばいで推移しており、物価上昇分を賃金が追いついていない状況がうかがえる。
特に2012年以降の円安進行が物価を押し上げている中で、賃金は横ばい圏で停滞している。
このことから、アベノミクスの影響で生じた円安は、輸入物価の上昇をもたらしたものの、それに見合う賃金の上昇は限定的であったと考えられる。
つまり、円安メリットが国民の実質所得の改善には十分につながっていないことが指摘できる。

税収の一定の成長にもかかわらず国債残高の上昇と円安が進行、平均労働賃金の成長が緩慢な状況は、以下の経済的な側面を示している。

  1. 財政赤字の継続: 消費税率の増加が税収を増やしているが、国債残高が増加していることは、税収増加が財政赤字を埋めるには不十分であることを示す。これは政府支出が収入を上回り、その差額が国債の発行で賄われていることを意味する。

  2. 経済成長の鈍化または不均衡: 国債残高の増加は経済成長が財政赤字の解消や債務減少を支えるのに十分でないこと、あるいは経済成長が特定のセクターや人口層に偏り、全体としての経済利益を生み出していないことを示唆する。

  3. 金融政策との相互作用: 円安進行は日本銀行の金融政策が国際市場での円価値に影響を与えていることを示す。量的緩和や低金利政策が円供給を増やし、その価値を下げることがある。

  4. 投資家の信頼性への影響: 国債残高の増加と円安は投資家が日本の経済政策や財政の持続可能性に疑問を抱いていることを示す可能性があり、国際的な信用評価に影響を及ぼし、国債の利子負担を増大させるかもしれない。

これらの状況は政府が財政再建と経済成長の適切なバランスを見つける必要があること、支出の効率化、経済成長を促す改革、そして長期的な財政健全性を保つ戦略の必要性を示している。

失政につぐ失政とともに、新自由主義経済の限界を露呈してもいる。

小泉、竹中らや、アベノミクスの経済政策功罪ではないか。

19世紀後半の英国失政は挽回するのに1世紀を要した。
日本の場合、それより悪化しており、さらに期間を要するかもしれない。

国民全体の「生活の質」を高めるため、成長と分配の好循環をもたらす政策転換が急務といえよう。宇沢の「人間的な豊かさ」を実現するには、経済的な富裕のみならず、文化的・精神的な充足も重視しなければならない。

経済政策の見直し

以上のように、アベノミクスは当初の期待とは裏腹に、財政健全化の遅れと格差拡大という構造的課題を生み出した。
今こそ新たな発想に基づく、持続可能な包摂的成長戦略が求められている。

アベノミクスの反省点を踏まえ、今後は以下の点を重視した新たな経済政策が求められる。

  1. 財政健全化と富の再分配の両立

    • 法人実効税率の引き上げと累進課税の強化

    • 教育、医療など公共サービスの拡充

    • 企業への過度な減税は格差是正につながらず、ピケティの理論に反する

  2. 経済成長と分配の好循環の実現

    • 宇沢弘文の提唱する「人間的な豊かさ」の追求

    • 経済的な富裕のみならず、文化的・精神的充足も重視

  3. 持続可能な包摂的成長戦略

    • 環境負荷の少ない持続可能な成長モデル

    • 全ての国民が恩恵を受けるインクルーシブな政策

財政出動と金融緩和に頼る従来の政策からの転換が必要不可欠である。新たな発想に基づき、持続可能でより公平な経済社会の実現を目指すべきである。

ミクロ的日常からマクロ的時事問題まで、資本経済の中で暮らす我々は、ともすれば、

今さえ、金さえ、じぶんさえ良ければそれで良い

という思考に陥っていないだろうか。もっと長いスパンで、経済は人間の生活のひとつの補助で、助け合っていけるのが、人間の叡智の彼岸のように思うのだが、利権を持つひとたちにとっては、こみいった話になるようだ。

閑話休題のつもりが長くなってしまった。
宇沢弘文は『人間の経済』で石橋湛山とケインズを批評し、植民地主義について一切触れなかったケインズを批判しつつ、湛山の思想を紹介している。

経済はあくまでも人間が人間らしく生きていくためのもの

『人間の経済』宇沢弘文 新潮新書

近現代における、あらゆる格差、紛争、戦争と資本は密接に繋がっており、昨今の時事問題でも、経済的視点が絡んでくる。

日々、資本と政経に対して、主権国家の主権者であることを忘れずに、そして、経済ありきではなく、人間ありき、でありたい。



参考文献

財務省 国債関連
『アベノミクスによろしく』明石順平 インターナショナル新書
『21世紀の資本』トマ・ピケティ みすず書房
『社会的共通資本』宇沢弘文 岩波新書
『人間の経済』宇沢弘文 新潮新書
「アベノミクス」は何を残したのか 安倍氏の経済政策 - BBC
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